上座に仁くんと私の御膳が用意されていて、両親の御膳を始め、部屋にずらりと並ぶ御膳。
それだけでも圧巻なのに、お料理一つ一つが懐石料理を思わせる色鮮やかさ。
折敷、椀盛、焼き物、強肴、吸い物、八寸、香の物…。
目だけでなく、頬が落ちるほど口の中が大喜びしてる。
「はまぐりのお吸い物、凄く美味しい」
「……ん、小春好みの味だな」
はまぐりは“一人の相手と永遠に仲良く過ごすという女性の幸せ”を象徴する縁起物。
毎年ひなまつりの日に、よく仁くんの家で振る舞われた吸い物だ。
お吸い物だけでなく、お料理一つ一つが縁起物と言われるようなものばかり。
私たちの結納と、私の誕生日を祝う御膳。
これ以上ないほどに贅沢だ。
次々と披露される出し物に桐生組の人達の想いが伝わって来る。
「おっ、新ネタだな」
隣りで楽しそうに手を叩く仁くん。
時折、合いの手みたいに声をかけ、他の組員たちと盛り上げたりしてる。
「腹八分目にしとけ」
「え?」
「デザートとか、まだあるから」
「……ん、分かった」
組の人がスナップ写真を撮ったりビデオカメラで撮影していて、『姐さん』と呼ばれる度にビクッと反応してレンズを見てしまう。
「若、もう少し寄って下さいよ」
「さっきから注文が多いよ」
「今日くらいいいじゃないっすか」
「ったく。……小春」
「……ッ?!無理、さすがにそこは無理っ」
隣りに座る仁くんが、胡坐を掻いている自身の脚をポンポンと叩いている。
こんな大勢のいる前で、膝の上に座るとか、拷問じゃない。
「あーねーさん、あ~ね~さんっ」
「っ……」
「あぁねぇさーん!!」
カメラを構えてる安さんが、周りにいる組員を巻き込む形でわざと声を張り始めた。
「小春、こいつら酔ってるから、諦めた方が早ぇぞ」
「なっ……」



