「小春ちゃん、ごめんね~、騙したみたいな感じになっちゃって」
「……」
「でも、仁と別れるつもりなかったでしょ?」
ほんの少し申し訳なさそうに眉根を下げたママさん。
けれど、パパさんもママさんも、私の両親も仁くんも確信犯だ。
初めて知った。
結納って、本人から一言もなくても執り行われてしまうだなんて。
別に結納が嫌だったとか。
仁くんと婚約するのが嫌だとか言うんじゃないんだけど。
私だけ、知らされてなかったことが少しだけ腹が立った。
「別れてくれと言われても、別れないですよっ!もう結納も済ませたんだもん」
私にだって意地がある。
まんまと騙されただなんて、癪だもん。
「あらやだっ、小春ちゃんったら、本当に可愛いんだからっ!」
みんなが一斉に笑みを零した。
「うちの奴らが首を長くして待ってるから、そろそろ食事にしようか」
「あっ、その前に写真だけ!」
「あぁ、そうだったな」
ママさんが襖を開けると、外で待機していた写真館の人が現れた。
床の間の前に置かれた結納品の前で写真を撮るらしい。
両親とスリーショットで。
両家の両親と私たちで。
仁くんと二人で。
向き合ったり、手を繋いだり、視線を合わせたり。
羞恥の限界とも思えるくらいたくさんの写真を撮った。
漸く大広間へと移動した私たちを出迎えてくれた桐生組の人たち。
物凄い拍手と『おめでとうございます』の声が響き合う。
本宅で食事が出来るのはごく一部の組員。
支部や傘下の組を入れたら数万名にも及ぶ組織の頂点にいるような人たち。
そんな人たちに祝って貰う。
四十人近くの組員と両親、そして彼と私。
誕生会と言われた祝宴の席は、彼と私の結納の宴でもある。



