姐さんって、呼ばないで



――――え、これは一体何?

「このたびは向坂家のご長女・小春様と、私どもの長男・仁との縁談をご承諾くださいまして、ありがとうございます。本日はお日柄もよろしく、結納の儀を執り行わせていただきます」

客間から床の間へと移動した私たちは、向かい合う形で両家が膝を突き合わせた。
そして、あれよあれという間に、仁くんと私の結納の儀が執り行われている。

「桐生家からの結納の品でございます。幾久しくお納めください」
「ありがとうございます。幾久しくお受けいたします」

当人同士である仁くんと私は蚊帳の外。
ううん、たぶん、私だけ……なんじゃないかな。

パパさんの言葉に、父親が当然のように答えてる。

「向坂家からの受書でございます。幾久しくお納めください」
「相違ございません。お受けいただきありがとうございました」
「気持ちばかりではございますが、結納返しを用意しております。幾久しくお納めください」
「ありがとうございます。幾久しくお受けいたします」

一言も発することなく、儀式が進んでゆく。

「本日は誠にありがとうございました。おかげさまで無事に結納を納めることができました。今後とも末永くよろしくお願いいたします」
「こちらこそありがとうございました。今後とも末永くよろしくお願いいたします」
「小春ちゃん、仁のこと、宜しく頼むよ」
「……あ、はいっ」

―――って、え??
もしかして、今ので結納が完了ってこと??

眼を見開いて挙動不審にキョロキョロしていると。

「プッ……ハハハッ、もう無理、限界っ」

仁くんがお腹を抱えて笑い出した。