昼休みの教室。

「さすが、若頭だね」
「みんなすっかり子分みたいだよ」

仁のカリスマ性にハマったD組の男子たちが、廊下で仁に声をかけてる。
独特のオーラを放つ彼は、一見近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
けれど、極道の若頭というのはある意味、単なる表札にすぎない。

人間性で考えれば、誰でも惹きつける魅力があり、幼い頃から置かれた環境で得た才能と人望がある。
多くの者を束ねる統率力は、戦国武将並み。

入学当初はどうなることかと思ったけれど、意外と順応している姿を見て、小春は胸が熱くなった。
私を守るために、彼はわざわざ入学して来たのだから。

「そうだ!今日ルルに行かない?」
「ルル?」
「期間限定のホットゼリーが出たんだって」
「えぇ、何それ?!」
「紅茶とか、ザクロとか。あと、りんごとかだったかな?うちのお兄ちゃんの彼女が友達と行ったらしくて、美味しかったって」
「美路ちゃん、お兄さんいたんだね」
「あ、うん。四歳離れてる大学生の兄が一人いるの。彼女も大学生で、よくうちに来るんだよね」
「へぇ~、仲いいんだね」
「そうなの、すっごくラブラブ」

お弁当を食べながら、美路が小春と詠を誘う。
以前食べに行った、隣駅の前にあるゼリー専門店ルル。
定期的に商品が入れ替わり、それが結構評判なのだ。

「じゃあ、仁くんに許可取るね」
「ここにもラブラブさんがいた」
「ねぇ~」
「揶揄わないでよ」

小春はスマホを取り出し、仁にメールを送る。
『今日、帰りに詠ちゃんと美路ちゃんとルルに行ってきます』と。

脅迫の一件は解決したとはいえ、若頭の彼女というだけで狙われやすいからだ。
『了解。気を付けていっておいで』

「仁くんから許可出たよ」

小春の言葉に詠と美路はクスっと笑みを零した。