姐さんって、呼ばないで


あくる日の四限目終了一分前。
現代国語の授業中だが、仁と鉄二は壁掛け時計をじっと睨みつけている。

予め教室の後ろのドアを全開に開けておき、ドア横の席の生徒に机を少し前に移動させておくなど、手抜かりはない。

そんな二人を小春と詠はチラチラと視線を向け、『頑張って』と両手を握りしめエールを送る。
仁は親指を立て、『任せろ』と合図を送り返す。

(三…二…一)

「鉄っ」
「っしゃあっ!」

キーンコーン、カーンコーン。
チャイムが鳴ると同時に教室を飛び出した二人。

「おっ、何だなんだ?!あの二人はどこに行ったんだ?」
「先生っ、もうチャイムなりましたよ~」
「あっ、あぁ。じゃあ、今日はここまで。来週は小テストするから、今日までのところをよく復習しておくように」

現代国語の担当教諭の小田(おだ) 邦彦(くにひこ)(四十二歳)が教科書を閉じると、一斉に教室内がざわつき始めた。

**

教室を飛び出した仁と鉄二。
廊下を突っ切り、突き当りの階段を駆け下りる。
一階に下り立った二人は渡り通路を駆け抜け、南棟に入るとそのままトップスピードで正面玄関へとダッシュ。

―――ダンッ。

「ハァハァハァッ……ブツはあるか」
「はい?」
「ハァッハァ…ハァ…、ブツだ、ブツを寄こせ」
「ぶつ?……うちはマグロを扱ってないんだけど…?」

仁は息を切らしながら、購買部の人に凄みのある顔で詰め寄る。

「おいっ、テンプラ(うそ)じゃねぇだろうな」

ダンッ。
鉄二がカウンターに両手をつき、どすの利いた声で睨みを利かした。

「天ぷら?……あぁ、天丼ね、ちょっと待ってね」

二人の目の前に熱々の天丼が差し出された。

「はい、お待ちどう様。四百円ね~」