姐さんって、呼ばないで


「兄貴、よかったんすか?あれで」
「……あぁ」

腹の内は煮えたぎっているが、組長の指示だからどうしようもない。
仁にとってもいい勉強になった。

愛する者を守るということが、どれほど鋭い痛みを伴うのかということを。

幼い頃に敵対する組の構成員に連れ去られたことのある仁。
力で捻じ伏せることができないのであれば、弱みを握ろうとしたのだ。

結局、その時は傘下に従える組の連中らが居場所を突き止め、最悪の事態には至らなかったが。
あの時の両親の安堵した顔を忘れたことはない。

愛する者は弱みであると同時に、何物にも代えがたい力となることを知っている仁は、弦にもそういう存在が現れることを切に願った。



一方、PAでは…。

莉菜のバッグから財布やキーケースなどを取り出し、自分が買い与えたものを全て没収した。
アスファルトの上には、保険証やハンカチなど、ごく一部のものだけ。
莉菜が住んでいるマンションも弦がくれたものだ。

莉菜は、都心から離れたPAに身一つで放り出されたのだ。

「処分はお前らに任せる」
「……へい、兄貴」

弦は自分のテカに莉菜の荷物を放り渡した。

「組長と若の恩情に感謝するんだな」
「っ…」
「二度と俺の前に現れるな」

帰る家も働く場所も、助けを求めるスマホもお金もない状態。
“命があるだけ感謝しろ“と威圧し、テカに“引き上げるぞ”と目配せした。

浅はかな欲望を曝け出したツケが、莉菜に何倍にもなって返って来たのだった。