莉菜の首を絞める弦の手を鉄がそっと下ろさせる。
「ハッ…ハッ……」
莉菜は地面に這いつくばるように両手をつき、必死に酸素を吸う。
小春に送り付けた封書には、莉菜が愛用している香水の香りが残っていた。
それは、弦からよく香っていた匂いだということも分かっていた。
それと、復元した小春のスマホのデータからも。
通話の音声はボイスチェンジャーアプリを使って変えられていたが、発信元を特定するデータ自体を変える技術は莉菜には無かったからだ。
身元を特定し、今日まで泳がせていたのだ。
弦は仁より一回り以上も年が上だ。
年齢的なことを考えても、他の組のように弦が若頭であってもおかしくないほど、弦の腕っぷしはいい。
けれど、喧嘩が強いから若頭になれるわけじゃない。
もちろん、年齢的なものでも。
組員の信頼は元より、極道の頂点に立つような桐生組を背負って立つ男となると、威厳や風格も必要となる。
「お前に一つだけ教えてやる」
地べたに這いつくばってる莉菜の前に仁はしゃがみ込んだ。
「たった今から、桐生組の息のかかる街では生きていけねぇぞ。…可哀そうにな」
ほくそ笑んだ仁はスッと立ち上がった。
「後は任せた」
「若っ……ありがとうございますっ!!」
「礼を言うなら、親父にしろ」
“小春に手を出したとはいえ、命を取るような真似はするな” “落とし前は弦につけさせろ” これが組長の指示だ。
今すぐ莉菜の息の根を止めたい衝動をぐっと堪え、仁は弦の肩をポンと叩いた。
「行くぞ」
「へい」
弦と莉菜と数人のテカを残し、仁たちはPAを後にした。



