新宿駅から高速で軽く一時間以上。
とあるPAに車は停車した。
「降りろ」
駐車場の一角に黒塗りの車がずらりと並び、後部座席のドアの外には、厳つい男が軽く十人以上。
容赦なくドアが開けられた。
「弦さんっ」
鋭い眼つきの男共の中に、顔見知った男を見つけ声を上げた。
黒いスーツを身に纏った『弦』と呼ばれた男は、表情を変えることなく後部座席から己の名を呼ぶ人物を引きずり下ろした。
「痛っ…な、何するのッ?!」
「それはこっちのセリフだ。気安く俺の名を口にすんじゃねーよっ」
「私はただっ……」
「ぁあ゛?テメェ、少し可愛がってやったからって、俺の顔に泥塗る真似しやがって」
「ん゛っっ」
桐生組の弦。
酒と女が好きで、毎夜のように女を侍らせるような男。
極道の男によくあるミステリアスな雰囲気が高級クラブのホステスたちに人気で、この目の前の女を虜にしていた。
弦が贔屓にしている銀座高級クラブ『蘭』のナンバー2のホステ莉菜。
桐生組でも片手に入る名の知れた男だけに、桐生組の掟も知らず『若頭』に据えようと勝手に画策したのだ。
莉菜の手からスマホを取り上げ、それを地面に叩きつけた。
そして、女だろうが容赦なく首を掴み、締め上げる。
女性には紳士的な甘いマスクと言われる彼とはまるで別人。
「止めろ」
「ですが、若っ」
弦の背後から、ゆっくり歩を進める仁の姿が。
弦は元々他の組の構成員で、濡れ衣を着せられ殺されかけたところを仁の父親である組長に救われた。
だから、その恩義を今日まで裏切ったことなど一度もない。
それなのにこの目の前の女のせいで、組は元より、若と姐さんに迷惑をかけてしまったのだ。



