小春の席の隣りに座った栗原。
自身のランチバッグから弁当箱を取り出し、無言で小春の缶ジュースの蓋を開ける。

「ありがと、詠ちゃん」

お礼を言う小春ににこっと微笑み返すと、すぐ横にいる俺に視線を寄こして来た。

「この教室階段から遠いし、購買があるの、南棟の正面玄関脇なんです」
「……距離があるってことか」
「はい」

確かに校舎が違えば不利だな。

「それに、四限目の授業によっては、トライするのも無理っていうか」
「……体育や音楽か」
「はい。体育館は西棟の更に奥だし、音楽室は東棟の四階だし。ここからトライするのも厳しいから、少し早めに授業が終わった時しか無理だよねって話してたところなんです」
「……なるほどな」

スイーツ好きな栗原なら考えそうなこと。
小春は栗原ほどではないが、やはり女の子。
美味しいものや新しいものは気になるだろう。

「明日は俺が行ってやるよ」
「えっ?」

小春のためならどんなことだってしてやりたい。
断然に俺の方が足が速いしな。

「鉄」
「何すか、兄貴」
「明日の四限目が終わったら、俺に付き合え」
「明日っすか?」
「あぁ、ヤバいブツ(プリン)があるらしい」
「マジっすか」

焼きそばパンを手にして仁の傍に駆け寄って来た鉄二。
仁からバナナプリンの話を聞くと、『お~っ、そんなヤバいもんがあるんすね』と目を輝かせた。
仁と小春のためなら、鉄二は己のタマ()ですら差し出す覚悟ができているからだ。

「鉄、ルートの確認に行くぞ」
「お供しやっす」