やっぱり全てお見通しだった。
昔から彼は勘が鋭くて、プレゼントを用意してもすぐにバレてしまうほどだった。

一年前。
唯一、この封書のことだけは隠し通せた。
というより、あの時期、学校行事が忙しいというのを理由にして、彼と無理やり距離を取っていたから。

二学期は行事が多く、文化祭実行委員や修学旅行の班長とか。
何かにつけて係の仕事を引き受けて、学校以外のことを考えないようにしていた。

だから、必然的にバレなかったのだと思うけれど。
まさか、記憶を失うとまでは思ってもみなくて。

「あれ、まだ大事に飾ってんだな」
「……うん」

彼の視線が机の上に置かれたブリザードフラワーに向けられている。
小さなスノードームみたいなケースに収まっているそれは、彼から初めて貰った、一輪の白い薔薇。

小学三年生の時に彼と取っ組み合いの喧嘩をした時に、仲直りの品として彼がプレゼントしてくれたもの。
両親の病院に勤務する看護師さんが教えてくれた。
白い一輪の薔薇は、『一目惚れ』を意味するんだよ、と。

実家がお花屋さんだというその看護師さんに、初めて貰った薔薇をずっとそばに置けるようにして貰った。

彼が白い薔薇を選んだ理由なんて知らないけれど。
私には彼がずっとヒーローで、誰よりも優しいお兄ちゃんで。
カッコいい彼が王子様なら、絶対綺麗になってお姫様になるんだ!と疑わなかったあの頃。
こんな風に恐怖と隣り合わせでも、きっと何も考えずに彼を信じてただろうな。

「仁くんだって、私があげたチョコの包み紙、額に入れて飾ってんじゃん」
「当たり前だろっ!一カ月のお小遣い使い果たしてまで買ってくれたやつなんだから…」

照れくさそうに彼は視線を逸らした。