姐さんって、呼ばないで

*

「ごめんね、仁くんっ」
「っ……俺が逢いたかったから、気にすんな」

小春の家の玄関ドアが閉まると同時に飛びついて来た。

「何か、あったのか?」
「……」

否定しないのは、肯定したも同然。
昔から嘘を吐くことすら出来ない彼女は、嘘を吐くくらいならだんまりを選ぶ。
それが何を意味しているのか分かるから。

「上がるぞ」

靴を脱ぎ、彼女の手首を掴んで二階へと上がる。

「待ってっ」
「待たねぇ。黙ってついて来い」
「っ……」

この家を建てた時から通っている俺は、どこに何があるのかも熟知している。

小春の部屋のドアを開け、中に入ると。
俺の視界を遮るように目元が彼女の手で覆われた。

「小春、今さら隠そうとしても遅ぇよ。この手退けねぇと、マジで切れんぞ」
「……っ」

彼女が何かを隠す時。
クローゼットの中にある、鞄の中だということも熟知している。

俺への誕プレや俺の知らない男から貰ったラブレターとか。
隠すのはいつも同じところ。
これは母親でも知らない彼女の癖で、俺だけが知っている。

「待ってってばっ」
「うっせぇな」

俺が隠しごとしたらブチ切れんのに、お前は堂々と隠そうとする。
けれど、根が正直すぎて、隠せてないんだけど。

「あった」
「……っっ」

大型リュックの中に隠すようにしまわれた箱。
ボックスティッシュよりやや大きくて、重さはさほどない。

箱の蓋を開けた、次の瞬間。
俺は、彼女に起こっていたことを初めて目の当たりにした。
事故後、初めて部屋に入ったから……というのは理由にならない。

十七通の封書。
微かな匂いが鼻腔を掠めた。

怒りで震える手。
これのせいで、一年前に俺は小春から『距離を置きたい』と言われたのだから。