姐さんって、呼ばないで



「ごめんね、仁くんっ」
「っ……俺が逢いたかったから、気にすんな」

小春の家の玄関ドアが閉まると同時に飛びついて来た。

「何か、あったのか?」
「……」

否定しないのは、肯定したも同然。
昔から嘘を吐くことすら出来ない彼女は、嘘を吐くくらいならだんまりを選ぶ。
それが何を意味しているのか分かるから。

「上がるぞ」

靴を脱ぎ、彼女の手首を掴んで二階へと上がる。

「待ってっ」
「待たねぇ。黙ってついて来い」
「っ……」

この家を建てた時から通っている俺は、どこに何があるのかも熟知している。

小春の部屋のドアを開け、中に入ると。
俺の視界を遮るように目元が彼女の手で覆われた。

「小春、今さら隠そうとしても遅ぇよ。この手退けねぇと、マジで切れんぞ」
「……っ」

彼女が何かを隠す時。
クローゼットの中にある、鞄の中だということも熟知している。

俺への誕プレや俺の知らない男から貰ったラブレターとか。
隠すのはいつも同じところ。
これは母親でも知らない彼女の癖で、俺だけが知っている。

「待ってってばっ」
「うっせぇな」

俺が隠しごとしたらブチ切れんのに、お前は堂々と隠そうとする。
けれど、根が正直すぎて、隠せてないんだけど。

「あった」
「……っっ」

大型リュックの中に隠すようにしまわれた箱。
ボックスティッシュよりやや大きくて、重さはさほどない。

箱の蓋を開けた、次の瞬間。
俺は、彼女に起こっていたことを初めて目の当たりにした。
事故後、初めて部屋に入ったから……というのは理由にならない。

十七通の封書。
微かな匂いが鼻腔を掠めた。

怒りで震える手。
これのせいで、一年前に俺は小春から『距離を置きたい』と言われたのだから。