記憶が戻ったと同時に、必死に覆い隠そうとした事実も思い出してしまった。
だから、私は彼の記憶だけを失ったように思う。
思い出したらいけないのだと、脳がそう判断したのだと。
事故から一年。
私が彼の記憶を失っていたから、あの脅迫が実行されなかったのだろうか?
実際、謀反のようなことを犯すとなると、余程の執念のようなものが必要だ。
桐生組のことを第一に考えている人物だとして、私が彼のそばにいることに不満があるのならば、今後また同じようなことが起り得る気がする。
どうしよう。
彼に記憶が戻ったことを伝えてしまった。
後悔してももう遅いけれど、さすがに昨日のあの状況下では、事実を呑み込むことで手一杯だった。
正直に彼に話して、今まで通りに距離を取って貰う?
それよりも、本気で婚約を解消して貰って、関係性を清算する?
それとも、再び記憶を失ったと、気付かれないようにすればいいだろうか。
次から次へと頭の中で情報が錯綜して、上手く纏めれそうにない。
いや、待って。
もしかして、私に送りつけられていた封書のことも知っていて、無理やり高校に入学したんじゃないだろうか?
そうだ、そうに違いない。
だって、幾らなんでも。
彼がカタギの人を振り回してまで、自ら飛び込むような人じゃないもの。
自分が桐生組の若頭だと幼い頃から自覚しているからこそ誰よりも人目を気にして、私に迷惑を掛けないように心を尽くしてくれていた。
そんな彼だから、好きになったんだ。
私に向ける愛情が、誰よりも優しくてあたたかかったから。
『逢いたい』
彼の声が聞きたくて、無意識にメールを送っていた。



