姐さんって、呼ばないで



自宅に帰宅した私は、すかさず部屋に籠った。

十八時まで診療時間だから、両親が二階の私の部屋に来ることもない。
母親が日中の昼休憩の間に夕食を作っておいてくれるから、帰宅後に私が夕食を作らないとならないということもない。

ベッドの上に鞄を置き、クローゼットの中にしまってあるリュックを取り出す。
普段は使わない、それ。
遠足などの郊外授業の時に使う程度のものだから、殆ど新品のようなもの。

リュックのファスナーを開け、中から薄手のひざ掛けを取り出し、その下に隠してある箱を取り出した。

記憶が戻ったと同時に、これを隠した記憶も蘇った。
約一年前に、誰にも言えずに、何度も処分しようと思ったもの。

震える手で、蓋を開ける。

一年も経っているのに、記憶は鮮明にある。
今見ても、胸が締め付けられるほど苦しくする元凶がここに。

ゆっくりと顔を箱に近づける。
まだ微かに残っていた。
―――あの香りが。

密閉するように蓋を閉じていたからだと思うが、この匂い、ホント無理。
吐気がして来るし、眩暈もして来る。

次第に呼吸が浅くなり、足先から体温が奪われているような感覚に陥る。

十七通の封書。
一通目は、日時と場所しか書かれていなくて、何かの招待状なのかと思ったんだ。
その日時に書かれている場所に行ったけれど、特に変わったことは何も起こらなかった。
ちょうど通りかかった桐生組の人と顔を合わせたくらいで。

二通目は一枚の写真が入っていた。
どこかの料亭のような雰囲気の一室の写真。