デート先で泣き崩れた小春。
腹でも痛いのかと一瞬思ったけれど、どうも様子がおかしい。

理由を聞いても話せるような状態じゃないし、電車に乗れるような状態でもない。
近くにいる組の奴らに車を手配させようと思ったが、俺らを尾行している奴らの存在を思い出して。
下手に動くと全てが水の泡になると踏んだ俺は、タクシーで帰ることにした。

誰にも会いたくないと言うから、仕方なくマンションへと連れて来たが。
涙は堰を切ったように溢れて来る。

こうなった時の小春は、手の施しようがない。

大喧嘩した時も、釣りに行ったのに自分だけ釣れなかった時も。
大泣きすると、暫く止まらなくて。
普段滅多なことじゃない限り泣いたりしないから、泣き始めるとどうにもならない。
ソファに座らせ、泣き崩れる小春をただただ見守るしかできなくて…。

二時間ほど泣き崩れた彼女が、漸く落ち着きを見せ始めた、次の瞬間。

「仁くん、ごめんねっ、……大好きだよっっっ」

目を真っ赤に腫らした小春が、微笑みながら俺の首に抱きついて来た。

何が起きたのか、一瞬分からなかった。
記憶を失っている彼女からの『大好き』発言。

今日の一日デートで俺を好きになってくれたのか。
再会したあの日から、少しずつ好きになってくれたのか。
俺が好きスキ言うから、デートの御礼に『大好き』だと言ってくれたのか。
それとも、……記憶を思い出したのか。

聞きたいけれど、ほんの少し怖くて躊躇してしまう。

例え、社交辞令的な『大好き』だったとしても十分すぎるくらい嬉しいし、いつだって俺の好きな気持ちの方が大きいから。
彼女からの愛情を求めてはならないと思っている。

俺の愛は重い。
小春が俺を好きになるように十年以上前から毎日のように擦りこんでいたのだから。