何事にも真っすぐな小春は、いつだって俺に満面の笑みを向け、荒んだ俺の心を癒してくれた。
それが、ある日突然、俺を見ると怯えるような素振りを見せたり、どこか後ろめたいような態度を見せるようになった。
『極道の若頭』という座布団(組織内での役職持ち)を持つ俺との関係性が、小春にとってマイナスなのは分かり切っていること。
だが、京極会 桐生組は極道と言えど、悪の権現のような組織ではない。
世間が抱く『極道』とはだいぶかけ離れている。
詐欺、恐喝、密売、人身売買、殺人……、ヤクザと言えばこれが当たり前だと思われているが、桐生組はそういった闇の仕組みを取り締まる組織だ。
今のご時世、昔ながらのヤクザ商売では食べていけない。
地に足をつけて、己の食い扶持くらい己のシノギ食べていく時代。
桐生組は建設会社と不動産会社を経営していて、極道に足を染めた者を堅気のように生きる手助けをしたり、巨大組織化することで、アコギ(強欲でタチが悪いこと)なシノギをしている奴らをシケ張り(シキテンを張る/見張る)するのが目的。
親父がいるからこそ実現できるものだが、この先俺が跡目を継ぎ、極道であっても小春には引け目を感じないでいてもらいたいから、真っ当な会社を作り上げたい。
そんな俺らにいちゃもんをつける筋者がいるのも当然で。
ナンバー二の俺のタマを取ろうとする奴は後を絶たない。
だから、矛先が俺の弱点である小春に目を付ける奴も当然いる。



