駿斗君との話が終わった後、私は人目を避けるため、彼にお願いして先に帰ってもらうことにした。
その瞬間、緊張感から一気に解放され力無くその場にしゃがみ込んでしまう。
そして、先程起こった出来事をようやく頭の中で整理する余裕が出来始めてきた頃。
突如襲いかかってくる激しい鼓動によって、危うく呼吸困難に陥りかけた。
まさか、信じられない。
あの佐伯君がこんな頼み事をしてくるなんて。
てっきり目の敵にされるかと思っていたのに、これから彼と放課後を共にするって……大丈夫か私!?
割と奥手の部類に入る私が、オーラ絶大のイケメン王子と謳われた、絶対的人気を誇る人と果たして上手く会話が出来るのだろうか。
さっきだってまともに話せなかった上に、顔すら見れなかったというのに。
………でも、あの美代さんの息子だと思って話せば、少しは気持ちが楽になるかもしれない。
顔も似ているし、何ならあのくりっとした目と人懐っこそうな振る舞いは豆太にも似ているような……。
そうだ。豆太だ!豆太だと思えばいい!
一体何がいいのやら。
散々思い悩んだ挙句、変な方向へと結論付いてしまった私の思考回路は結局そのまま修正されることなく。
何やかんや、今日一日ずっとそわそわしっぱなしで終わってしまった。
そして、ついに来てしまった約束の時間。
一先ず朝の出来事を含め、彼との事は誰にも追求されることなく、私はまるで指名手配犯になった気持ちで周りを警戒しながら屋上の階段へと向かった。
「……良かった。まだ居ない」
私が教室を出る時は既に彼の姿が見えなかったので、もしやと思っていたけど、いい意味で予想が外れたことにほっと胸を撫で下ろす。
「何が良かったの?」
すると、安心していたのも束の間。突然背後から少し低めの声がして、条件反射で肩が思いっきり震えてしまった。
「さささ佐伯君、いつからそこに!?」
まるで忍びの如く、完全に気配を消していた彼の存在に改めて驚いたのと、つい漏らした本音を聞かれてしまったことに、私は気不味さの余り目が泳ぐ。
「今さっき。それよりもショックだなー……。川村さん、もしかして俺の事嫌い?」
しかも、とても物悲しい目で見つめてくるそのいたいけな瞳は、以前おやつをくれると勘違いして、見事期待を裏切られた豆太の表情とそっくり。
そう思うと何だかとても居た堪れない気持ちになり、私は力一杯首を横に振った。
「そんなことあるわけないじゃん!寧ろ、私みたいな人間を佐伯君の試食係に任命されるなんて光栄過ぎるから!」
そして、必死のあまりつい余計な事まで口走った気もするけど、そのお陰か。
彼の表情は一気に晴れやかになり、花が綻ぶような柔らかい笑顔を見せると、私の手首を急に掴んできた。
「良かった。それじゃあ、こっち来て」
それから優しく私の腕を引っ張る彼の姿と、前方にあるガラス扉から差し込む夕日が相まり、キラキラと輝きを放つその様がまるで本物の王子様のようで。
その洗練された光景に、暫しの間私は目を奪われてしまう。