今日も晴天が続く清々しい太陽の下。
少しひんやりとした風から薫ってくる土っぽさと、金木犀の甘い香が鼻を掠めていき、本格的な秋を感じながら、私は上機嫌にお馴染みの通学路を歩いてく。

「心ちゃんおはよう。今日はやけに機嫌がいいのね?」

そんな私に一早く気付いた美代さんは、癒しの源である豆太と一緒に、これまた心を解いてくれる優しい笑みを浮かべながらこちらの方に向かってきた。

「はい。お弁当が私の好きな焼きそばと唐揚げなので、テンション高めなんです」

まるで成長期真っ只中の男子が喜びそうな、女子力皆無のお弁当に胸を躍らせながら、私は満面の笑みを美代さんに見せる。

「そういえば、昨日の調理実習どうだった?なんかうちの子珍しく落ち込んで帰って来たから気になって。聞いても理由を話してくれなかったし、一体何があったのかしら……」

すると、不安気に話す美代さんの衝撃的な事実によって、再び肩にのし掛かってくる重量感たっぷりの罪悪感と後悔の石。

まさか、そこまで彼を傷付けてしまっていたとは思いもよらなかったので、果たして美代さんに正直に話すべきかどうか頭を悩ます。

「……そ、そうなんですね。わ、私は違う班だったのでよく分からないですー」

ギリギリまで悩んだ結果、やはりパティシエを目指す彼の母親の前では言えないと。

良心がかなり痛むところではあるけど、苦手な嘘を選んだ私は、視線を明後日の方向に向けながらその場を誤魔化した。

「そうなのね。駿斗は幼い頃から世界中の人達に愛されるお菓子を作ることが夢みたいで、毎日研究してるのよ。何故か昨日は暫く部屋から出てこないと思ったら急にキッチンに篭って、夜通し何か作ってたから……」

「へ、へえー。そ、それは凄い立派なことですね」

それから話題を違う方向へ持って行こうとした矢先、更なる衝撃的事実を知ってしまった私は血の気がどんどん引いてきて、乾いた笑いしか出てこない。


ど、どうしよう。
なんか、思ってた以上に話が凄いところまで行っているような。
たかが私の好み一つで、彼にそこまでの影響を与えてしまったなんて……。

世界中の人達から愛されるスイーツ。確かにそれを実現するのはかなり至難の技なのだろう。

そんな大それた志を持ち、日々努力を怠らない彼の行いは高校生ながらにとても素晴らしく思え、心から尊敬する。

けど、私の無神経な一言によって、もしかしたらその志にヒビを入れてしまったのかもしれない。

そう思うのは何だかとてもおこがましい気がするけど否定も出来ないような話に、いつの間にやら頭の中にあったお弁当の事は綺麗さっぱりと消し去られ、今脳裏に浮かぶのは昨日見た佐伯君の悲しそうな表情だった。