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「心、おはよう」

美代さんと別れてから、少し先を歩いた曲がり角にある郵便局ポストの前。

その脇に立っていた駿斗君は私の姿を見るや否や、これまた甘く蕩けた笑顔を振りまいてくれた。

「おはよう駿斗君。ごめんね、少し出る時間遅くなっちゃって」

「全然平気だよ。それより、今日はいつもと違うヘアピン付けてるんだね。可愛い」

すると、顔を合わせるや否や、早速昨日買ってきた白い小さなガーベラがワンポイントで付いてるヘアピンを指摘され、私は一瞬目を丸くした。

「よく気付いたね?結構シンプルなやつなのに」

「毎日見てるから当たり前じゃん」

さも当然のように言うけど、私以上に見ている豆太の首輪には気付いてないよね?

……と、内心冷静にツッコミを入れるも、裏を返せば私は駿斗君にとって豆太よりも関心がある事を知り、段々と嬉しくなってくる。

人ならぬ愛犬に対して優越感を抱く自分もどうかと思うけど、そんな彼に益々愛しさを感じ、私は朝から駿斗君の腕に絡みつく。

「ねえ、駿斗君。今日の試食ってなに?」

そして、今回もまた私の為に新作を披露してくれると言うことで、待ちきれず目を輝かせながら彼を見上げた。

「秘密。放課後のお楽しみでね」

そんな私の期待をさらりと受け流し、お預け状態をくらった私は、少しだけ不貞腐れた表情を見せる。

けど、それが彼にとって、またもや刺激になったようで。
突然肩を引き寄せられ、朝から頬に軽いキスをされた私の顔は、一瞬にして熱を帯び始めていく。

それはまるで、砂糖と塩が混じり合って生まれる対比効果のような。

どこまでも甘く蕩ける一時。

そんな愛しい君と過ごす幸せな日常が、秋の爽やかな風と共に、今日もまた訪れようとしたのだった。


〜〜完〜〜