「上を目指すには、貪欲にならないとダメだからね」

そんな私の指摘を駿斗君は何故かとても満足気な顔でさらりと受け流し、愛おしそうに優しい手付きで私の髪を弄り始める。

……まあ、確かに。
うん。一理あるかも。

そして、あっさりと彼に丸め込まれるのは、もう日常茶飯事となってしまった。


「それで、今度は何を作ったの?」

一先ず、イチャイチャするのはここまでにして。
今日は新作お披露目会でもある為、朝から楽しみにしていた分、私は目を輝かせながら催促してみる。

「チーズケーキ。心専用のは砂糖一切使ってないから、ケーキというよりワインのお供って感じかな?でも、それもありだと思うんだよね」

そう軽く説明してくれると、駿斗君は紙袋からいつものタッパーを取り出し私の前で蓋を開けてくれた。

見ると、中にはベイクドチーズケーキがビッシリ詰まっていて、ケーキなのに生ハムが乗っていたり、オリーブオイルが添えられたりと。

もはやスイーツというよりはオードブルにも見えるけど、どれも好きな物ばかりで更に期待が高まる中、一つ摘んで口に含める。

その瞬間、濃厚なチーズの味が一気に広がり、絶妙な塩加減に私の好みを思いっきり刺激してくる。

「超美味しいー!これってチーズブレンドしてるの?凄く濃厚だけど、かと言ってあまり主張し過ぎないまろやかさもあって、口溶けも滑らかだね。やっぱり駿斗君って天才!」

「ありがとう。チーズはクリームチーズとブルーチーズを使ってるんだ。心の味覚も大分鋭くなってきてるから助かるよ」

「そう言われると頑張った甲斐あるなあー。でも、これからも駿斗君の良きアドバイザーとしてもっと修行しなきゃ」

……そう。
何を隠そう頂点を目指す彼のためにも、私はこの試食会に備えて自分の味覚を鍛えようと、家族協力の下食材当てゲームを何回もこなしていた。

その結果、最初に比べて大分詳細な感想を言えるようになり、その度に駿斗君は喜んでくれて、その笑顔を見たさに学校の勉強よりもそっちに全力投球している昨今。

愛の力というのはこんなにも原動力があるものなのかとしみじみ感じながら、私は更なる努力をしようと小さく拳を握り締める。

「ああ、もう止めて。またキスしたくなるから」
 
「へ?しゅ、駿っ……」

すると、私は何かスイッチを押してしまったのか。

突然駿斗君に肩を引き寄せられ、何事かと視線を向けた瞬間、頬に軽く手を添えられ再び唇を奪われてしまった。

キスしたくなるって……思いっきりしてるじゃん!

……っと、ツッコミを入れたい所だけど、生憎唇が塞がれてしまっている為何も言うことが出来ず、またもや彼の甘さに翻弄されてしまう私。