その日、私は成輔からパーティーへの同行を誘われていた。

「強制じゃないよ。婚約者といっても正式な妻でもないんだ」
「それなら遠慮する」

そういった賑やかな場には極力行きたくない方だ。子どもの頃だって、父のお供で出席するのは嫌だった。成輔と会えるから、仕方なく出かけていたくらいで。
しかし、大人になった今、好き嫌いでそういったことを言えないのもわかっている。今後風尾グループ関連で出席しなければならない機会もあるに違いない。

「やっぱり行こうか」

仕度をしている成輔に声をかけると、彼は振り向いて笑顔を見せた。

「貴重な休みに無理してついてくる必要はないって」
「いや、そう言ってもらえるのはありがたいけれどね」

実は持ち帰った仕事がいくらかあるので、今日はそれを片付けさせてもらおう。百合の気持ちを考え、もやもやしていたせいか、今週は仕事の進捗がいまいちだった。

成輔が出かけてから、リビングで仕事を片付けた。
今日できるのはこれくらいかなと顔を上げると、時刻は18時。成輔はパーティーに参加中だろうか。
ふと、ダイニングテーブルにスマートウォッチが置いてあるのに気付いた。成輔のものだ。