今谷はけろっとした様子で言った。

「恋愛結婚しようよ、俺と」
「いや、無理だけど。今谷に恋愛感情ないし」

あまりに無遠慮に言ってしまった。金曜に言えなかったことだけど、ここまでぞんざいに答えるつもりもなかった。

「でも、あの婚約者さんともそこまで親密に見えなかったぞ」

朗らかに痛いところを突いてくる。確かに突然現れた成輔に、眉をひそめてしまったのは事実だ。

「まだ付け入る隙がありそうだから、俺は頑張るよ。略奪愛って燃えるし」
「ポジティブすぎない?」
「俺のことが好きになったら、ふたりで周囲の人たち全員を説得して幸せになろう」
「だから、そうはならないって」

そこまで言ったところで、始業のチャイムが鳴り響き出す。

「またあらためてデートに誘うからな!」

自身のオフィスに向かう私に今谷が言う。

「断るよ」

顔だけ向けて、私は答えた。
立て続けにふたりの男性に「好きになってほしい」と言われている現状、私の人生ではたぶんもうない珍事だと思う。