朝、のろのろと出勤の準備をする。昨日のキスがまだ尾を引いていて頭が重くてだるい。
まさか、成輔が私に本気だなんて。
いや、成輔のことだ。昨日の態度すらポーズである可能性も……。何か目論見があるのだ、きっと。

同時に好きでもない女のためにわざわざ京都まで行くかと言った成輔のことが思い浮かぶ。そうなのだ。何か目論見があるにしても、なぜそんな手間暇をかけるのか。

素直に私のことが好きなのだと認め、理解すべきなのかもしれない。しかし、納得がいかない。
私は美人ではないし華やかではない。着飾ることにも自分を磨くことにも興味がない。

同じ院田家の娘なら百合を選ぶ男性がほとんどだろう。
百合は綺麗だ。顔は私と同じパーツなのに、目や鼻の配置の妙で美しい。しとやかで控えめなのはもともとの性格。我の強い私と違って、柔軟で穏やか。
そして、私にはない華道家の才能にあふれていた。

私は百合を羨ましいとは思っていない。百合みたいになりたいとも思ったことがない。
ただ、華道という一点において、百合には到底かなわないと自覚し、彼女の才能を誰より尊敬している。
オンリーワンなのだ、百合は。
成輔のように才知にあふれた青年実業家は、そういった女性の方がいいのではなかろうか。