成輔がコンビニの中にいる間に駐車場を出て、国道をずんずん歩き出す。スマホの地図アプリを手に横の道へ入り、一番近い駅に向かって進む。

「成輔が私を好き?」

歩きながらつぶやく。

「うそでしょ」

確かにずっと好きだとは言われてきたけれど、彼の軽口だと思っていた。家同士の約束で結婚する相手だから、優しくしているのだろう、と。本心から好きだなんて、誰が想像できるだろう。

「私なんか、成輔が好きになる要素ゼロですけど」

地味で格別に美人でもなくて、面白い話ができるわけでも、華道の才能にあふれているわけでもない。
自分の興味のないことにはとことん無関心だし、それを悪いとも思っていない。私は私のために生きていければいい。そんな女のどこがいいの?

「っていうか、勝手にキスするな!!」

うめきながら、拳を握る。恥ずかしさといたたまれなさが今更ながらぶわっと全身を襲うのだった。

スマホには成輔から『ごめん』と素直な謝罪メッセージが来ていたが、戻る気はない。
『ひとりで帰ります』とだけ返信し、目の前に見えてきた駅に向かってずんずん歩く。
たぶん、私はまだ赤い顔をしている。