「朝ごはん食べすぎて気持ち悪いって言っていたのはどうしたの?」
「あれは、みかんが美味しくて食べすぎただけ。もう治ったから、結婚式のごはんも美味しく食べられるよ」
「それはよかった。じゃあ、先に行くね。ヴァージンロードの先で待ってる」
「待ってて」
「転ばないでね」
「気を付ける!」

介添え人に付き添われ、チャペルの前の父と合流した。父は和装だ。普段から着物は多いが、黒紋付姿は初めて見た。

「お父さん、エスコートよろしくね」
「葵が結婚か。成輔くんにいつか葵と結婚したいと言われて十年くらいかな。ついにこの日が来てしまったなという感じだよ」

言葉の内容の割に口調はあっさりしているのが父らしい。私のドライな性格はおそらく父譲りだ。

「お見合いさせたくせに~」
「葵は自分でちゃんと納得しないと動かない子だからな。ああいう機会がないと成輔くんが可哀想だと思ったんだ」

父は言い、私の腕を取る。まあ、父のおかげで成輔と関係を見つめ直し、今があるのだけれど。

「お父さん、ありがとね。幸せになります」
「ああ、葵なら大丈夫。おまえの生ける花を見て、ずっと思ってた。葵には葵にしか見えない世界があるんだな、と。百合とは違う光があった。そういうおまえだから、どこにいっても大丈夫。信頼しているよ」