「葵、チェックアウトも新幹線もゆっくりだから、食後もう少し休んだら?」

身体を気遣われているのだと恥ずかしくなる。確かにキスマークはつけられまくったし、身体の中心は重くてだるいけれど、寝込むほどじゃない。

「ありがと。でも、大丈夫。実家にお土産買わなきゃ」
「なるほどね」

成輔はふふっと笑う。その穏やかな笑顔は今まで見たことがないくらい静かで綺麗。
満たされている人間はきっとこんな表情をするのだ。
私もそうだろうか。
でも、私はまだどこか夢みたいで、ふわふわする。

「葵、提案があるんだけど」
「なに?」

箸を置いて、成輔の顔を見る。

「結婚と挙式を早めない?」

私が苗字を変えたくないからと先延ばししていた結婚。私は迷うことなく頷いた。

「うん、いいよ」
「いいの? 提案しておいてなんだけど、きみは苗字が変わったり、不便かなって思ってた」
「今なら、成輔の気持ちがわかる。別に同じ籍に入らなくても幸せだけど、家族になって、結婚式を挙げたいって気持ちが……やっとわかった。遅くなってごめん」
「葵には葵の考え方があると思ってたから。同じように考えていてくれて嬉しいよ」

その言葉に、成輔の愛情を感じた。
ずっと彼は重ならない気持ちに寄り添ってくれていた。
違いを認め、強制せず、近くにいてくれた。それが、成輔の隣にいて感じる居心地の良さで、私が恋を実感したきっかけだったのだ。

「帰ったら、色々決めよう。私、成輔と家族になりたい」
「うん、ありがとう。葵」

こうして私たちは京都を後にした。秋の深まりを感じながら。