シャワーにでも行こうと、サイドボードの眼鏡に手をのばす。すると、ベッドのきしみのせいか、無意識なのか成輔が腕をのばしてきた。そのまま私の腰に腕を巻き付け、ずるずると布団に引っ張り込む。

「ちょっと!」
「ん……」

成輔はまだ覚醒していないようだ。寝ぼけたまま、私をぎゅうっと抱きしめる。

「成輔、苦しい。離して」
「葵……」

私の名を呼ぶ幸せそうな声。
力強い腕を少しだけ緩めさせたものの、私はそれ以上抗うのをやめた。まだ早朝という時間帯。シャワーは二時間くらい後でもいいだろう。

「仕方ないなあ」

私は成輔の裸の胸に顔を押し付け、再び目を閉じた。
夜はまだ明けない。静かな優しい朝の、幸福でたまらない二度寝だった。



ゆっくりと起き出し、ふたりでホテルの料亭で朝食にした。フレンチレストランの洋食か料亭の和食か選べるのだ。昨晩、フレンチはたっぷりいただいたので、白いごはんとお味噌汁が欲しかった。

庭園が臨める座敷には、同じような利用客が何組か。旅行客が多いようだ。
日本庭園は玉砂利を敷き詰めた箱庭のような造りで、見事な枝ぶりの紅葉が見頃だった。
成輔と向かい合っていると、言葉が出ない。昨晩の余韻が二人の間に満ちていて、ただただ静かに心が落ち着く。