熱情滾るCEOから一途に執愛されています~大嫌いな御曹司が極上旦那様になりました~

「そんな時期があったの、知らなかったよ」
「外聞が悪いから親父も言わないだろ。でも、ある日遊び歩くのも疲れちゃって、なんとなく院田家の前にやってきたんだ。うちの実家と近いし、家には帰りたくないけど、他に行き場もなくて。曇った土曜の午後でさ。そうしたら、葵が縁側から垣根の向こうにいる俺を見つけて母屋から出てきたんだ」

その話を聞いて、なんとなく記憶の端にその光景があるような気がした。そう。温い風が吹く土曜の午後。家族は留守で、私は縁側で雨が降るかなと空を見上げていた。そうしたら、生垣の隙間に成輔が見えたのだ。

「『いらっしゃい。おにぎり食べていかない? 私、作って食べるところなんだけど』って、おにぎりの誘いをするもんだから、その場の勢いで頷いちゃったよ」
「私、おにぎりなんて言ったの? その頃から食いしん坊キャラ?」
「あはは。葵なりに俺が元気なさそうなのに気づいたんじゃない? 炊飯器に残っていたお米を炊飯窯ごと出してきて、ラップと塩、山ほどいろんな具材をテーブルに並べて『さあ、作ろう』って」

ああ、その時の記憶だったのか。
私の中にはいつのことだかわからない思い出があった。成輔とうちのダイニングでおにぎりを作って山ほど食べる思い出。

私はいつだって今の興味に夢中で、些細な記憶はすぐに忘れてしまう。
だから、この思い出も私の思い違いか妄想かと思っていた。実際にあったことだったのか。