熱情滾るCEOから一途に執愛されています~大嫌いな御曹司が極上旦那様になりました~

もやもやがやるせなさだと気づいたのは、その成輔の言葉がきっかけだった。
成輔は百合の作品を、人間性を正しく見ている。
その作品に込められた、あらん限りの情熱を余すところなく受け取っている。
それは私には入れない世界だと思った。

私には百合のような作品は作れない。
私はいつだって自分に納得したかった。だけど、院田流で、私のほしかった模範解答は百合しか出せなかった。
幼い頃は真似もしてみた。恥ずかしくはなかった。私だって、百合の作る世界を自分の手で生み出したかったから。だけど、私には作り上げる才能がなかった。

研究者としての道を愛している。ここまで来られたことを幸運だと思っているし、理解してくれた家族には感謝している。

だけど、私の心の一部は幼い頃にとどまっているのだ。
『百合の作るものが私には作れない』
その壮絶な挫折が私を形作っている。

「百合と結婚すればいいのに」

ぼそりと漏れた言葉は小さくて、成輔が「え?」と聞き返す。

「風尾グループの次期トップなんだから、妻も立派な人の方がいい。箔がつくよ。美しく才能あふれる院田流の次期家元」
「何を言ってるの、葵」
「箔はいらない? でも、薬品や堆肥を一日中いじっている地味な研究職の妻より、ずっといいよ。それに、成輔の妻になれるなら、百合もきっと喜ぶ」