その目にはすでに涙が溜まっていた。
「絶対に無事に戻ってきてね?」
若葉はそう言うと、ドアに欠けていた手にグッと力を込めた。

ドアは難なく開き、その音でも数人のゾンビたちがこちらを振り向いた。
ドアを大きく開くと同時に音を打ち鳴らす。
ガンガンと鼓膜に響く音と、ドクドクという自分の心音が重なり合う。

廊下を徘徊しているゾンビたちが音に反応してこちらへ近づいてきた。
「やった! 反応してる!」
若葉が思わず叫んだ。

その瞬間に明宏は前方のドアを開いて飛び出した。
千歳もその後を追いかける。

2人は全力で走った。
後方から四条姉妹が立てる音が聞こえ続けてきているだ、食堂まで一気に走り抜けることは難しい。

「ひとまずトイレに入ろう!」
明宏は後ろについてくる千歳へ向けてそう叫び、最寄りの男子トイレに逃げ込んだのだった。