しかもことある事に「可愛い」だの「好き」だの伝えてくる。

その度に頬を染める私も大概だと思うが。

それでも平然を装うことを辞めてはならない。

あくまで私はまだ、一介のメイドにすぎないのだから。


「そういう冗談は結構ですので離してください」
「いつもと匂いが違うな。シャンプー変えたか?」
「人の話聞いてます?」


まさか匂いを覚えられているとは思わなかった。

あれだけ色んな女子の香水の匂いを制服にまとっていたくせに私の匂いは覚えていたのか。

不快感と優越感が混じって何とも言えない気持ちになる。


「敬語やめろと何回も言っただろ。前は普通に話してくれたのにすぐに戻しやがって」
「坊っちゃまにタメ口で話しているところを誰かに聞かれたら解雇されかねませんので」


そう言うと遥くんは口を噤んだ。

その代わり腕の力が強くなった。

手放さないという意思表示なのだろうが、この状況でいるのも相当まずい。

最悪私が遥坊っちゃまを誘惑した不埒なメイドに仕立て上げられてしまう。


(だからといって下手に抵抗できないのよね。だって・・・)