「わかりました……」
「敬語! 俺は羽賀さんのこと『穂香』って言うから。ほら、澄人って呼んでみて」
「す、すみと……さん?」
「うーん、まあ……いいよ、『さん』付けで」
不満そうにしながらも、しぶしぶ頷いてくれた。今日は一日澄人さんの恋人……意識するとひどく緊張する。
あまり澄人さんの顔は見ないようにしよう。
「あの、今からどちらへ? というか、お仕事は大丈夫なんですか?」
「ほら、また敬語! 今日は休み取ってるから。穂香を俺の別荘に招待したくて」
「え!? べ、別荘……!?」
「っていっても売却予定の別荘なんだけどね。そこで最後に穂香とゆっくりしようと思って」
売却……なんだか勿体ない気持ちになりながらも、『別荘』と聞いて顔が綻んでしまう。
澄人さんは「そんなに期待しないで、大したもんじゃないから」と自分の頬を指で擦った。
私は自分の中の別荘のイメージを澄人さんに伝えてみることにした。
「別荘ってことは……プール……ですか!?」
「残念、温泉」
「お、温泉!? 今から入れるんですか?」
「うん、そのつもり。だから、けーいーごー」
いつまでたっても敬語口調が直らない私の頬を、澄人さんは指でツンと突いた。
「この口が言ってんだろ、この口がよ〜〜!」
「もう、なん……アハハッ」
私より子供っぽい澄人さんにつられて、大笑いしてしまう。



