「ええー」

素晴の提案を聞いて、私は素晴に向かって唇を尖らせていた。
その理由は、病院を退院した後私の実家に行きたいと素晴が言い出したからだ。

「もともと夏休みは実家に帰る予定だったんだろ?」
「そうだけれど・・・」

「じゃあいいじゃないか、飛行機もホテルも手配済みだから何の準備もいらない」
「そんな簡単に・・・」

私が反対することを見越して、素晴はすべての手配を終えていた。
実家にまで連絡をしたというのだから、驚いてしまう。
それにしても、3年ぶりの帰省なら私だって用意があるのに。

「必要な物があれば俺が全部買ってやるから。なあ、いいだろ?」
「何で急にそんなこと言うのよ」
「碧が育った島に行ってみたいんだよ」
「素晴・・・」

私だって素晴に故郷の島を見てもらいたい。
でもなあ・・・
帰れば地元から「早く戻ってきてほしい」と言われるに決まっている。
それを考えると気が重い。

「大丈夫、俺が付いているから」
「うん」

うつむいてしまった私を素晴がギュッと抱きしめた。
フフフ。
やっぱりムスクの匂い。
私も無意識のうちに素晴の背中に手を回していた。