「何か大きな声が聞こえたのじゃが、、、。」 「おそらくは葵殿でしょうなあ。 何か得体の知れぬ物でも見付けたのであろうよ。」
「それは良いのじゃが今日の拝殿はどうするな?」 「代わりはたーーーーーーくさん居ります故ご心配なさらずともよいわ。」
「そうであるか。 ならば参ろうぞ。」 こうして巫女たちはいつものように拝殿を目指すのであります。
その頃、地上では雪之丞が少しずつ歩を進めておりました。 「いい景色だねえ。 今日は来て良かったよ。」
その声にみんなはホッとするのです。 いきなり「帰ろう。」なんて言い出されたら大変。
まだまだ高山植物も芽を出したばかり。 華やかに咲き香るのはもう少し先のこと。
下から仰ぐ富士もなかなかいい物で、雪之丞は撮影ポイントを見付けてはカシャカシャとシャッターを切っていきます。
この日のためにフィルムも山ほど買い貯めてありますから何の心配もしていません。 途中で無くなると「俺に仕事をさせない気か!」と怒鳴りだすので、、、。
それくらいに厄介なんですよ 雪之丞を怒らせると。 それであんまり話もせずに上へ上へ登ってきました。
もうすぐ昼です。 またまた木陰を見付けたみんなはレジャーシートを広げて弁当を取り出しました。
ここから上に登ろうとすると規制ロープが張ってあります。 この先は落石も有るし雪で地面が緩んでいたりもしますからね。
この辺りには山小屋も有ります。 もしもの時には中で休めるようにもなっています。
雪之丞は頂を見詰めながら雲が流れ過ぎる瞬間を追っています。 同行の一人が弁当を差し出そうとしますが、、、。
「やめとけ。 今、手を出したら噴火するから。」 そう言って別の一人が手を止めました。
彼が何を狙っているのか? それは頂に掛かった雲海が途切れた瞬間です。
その写真を撮り終わると「すごい写真が撮れたぞ。」と自慢そうに画面を見せてきます。 この時の雪之丞はまるで仏様みたい。
弁当を掻き込んでお茶を飲み、レジャーシートに寝転がって辺りを見回していますと大声で話しながら歩いてくる1団を見付けました。
「うるさい連中だなあ。 何をやってんだ?」 「中国人ですよ。」
「やつらか。 まあほっとけ。 自業自得で死んでも手を出すなよ。」 雪之丞は冷たい視線を送りながらまた寝転がりました。
一団はロープの前でワーワーと奇声を上げております。 何とも耳障りな奇声です。
そこへ山小屋の管理人らしい男が出てきました。 「今は登れませんよ。」
「いいんだ。 俺たちは登るために来たんだ。 行かせろ!」 「まだ開山してませんから。」
「俺たちに登らせないって言うのか? お前何様だ?」 男たちはゲラゲラ笑いながら悪態をついてきます。
管理人は根負けしたように言い捨てました。 「何が有っても何が起きても知りませんからね。」
「大丈夫大丈夫。 俺たち猿とは違うんだ。 自分たちで何とでも出来るから大丈夫。」 男たちは笑いながらロープを越えていきました。
雪之丞は頂の向こう側に黒い雨雲が掛かり始めているのを見ました。 「しばらく小屋に入ったほうが良さそうだな。」
同行の一人は不思議そうな顔をしましたが、雪之丞が指差す雲を見て納得した様子。
シートも畳んで小屋にお世話になることにしました。 「おやおや珍しいですねえ。 あなたはカメラマンですか?」
「そうです。 今の時期の富士山を撮りたくて来ました。」 「そうですか。 もうすぐ雨ですよ。」
「そうですねえ。 でもあれは霙混じりかもしれないなあ。」 「とするとさっきの男たちは?」
「まあ、ほっとけ。 身の程知らずを思い知らせてやるんだ。」 雪之丞は熱いコーヒーを飲みながら頂に目をやりました。
1時間ほどして辺りには強風混じりの雨が叩き付けてきました。 「これはひどいなあ。」
山小屋の主人もしかめっ面をして頂のほうを見やっています。 「でもそんなに長い雨じゃなさそうだな。」
成田君は窓の外を見ました。 すると、、、。
山岳救助隊の一団がロープの前に集まってきた。 「何だろう?」
「さっきの連中が呼んだんじゃないのか? まったく人騒がせだぜ。」 雪之丞はポカリと煙草を吹かしながら吐き捨てました。
その40分後、あれだけ奇声を上げていた連中が団員に付き添われて下りてくるのが見えました。 「ここで一休みさせるのかな?」
「とんでもない。 あんなのを入れたら中が大騒ぎになる。」 「でも取り敢えずは入れないと救助隊が、、、。」
成田君たちの話を聞いていた主人が扉を開けて一団を受け入れましたが、、、、。 「あなた方は端のほうでいいでしょうねえ。 自分で何でもなさるんでしょうから。」
そう言って中国人の一団を隅っこに追いやったんです。 救助隊の面々には暖かいコーヒーを差し出しました。
ボスらしい男がガタガタ震えながら喚いています。 「俺たちには何もしないのか!」
「そうだそうだ。」 主人はその声を黙って聞いていますが、、、。
「何とかしろよ! 人殺し!」 それを聞いた人たちは思わずコーヒーを噴き出して大笑い。
それを何かと誤解した男たちはさらに煽り始めました。 「そうだそうだ。 ここの家主は人殺しだ。 殺しちまえ!」
それを聞いた主人はスッと立ち上がると中国人が居るほうのドアを開け放したんです。 真正面から冷たい北風が吹きこんできます。
「さあ、ここから出ていくか? それともおとなしく従うか? どっちだ?」 そのどすの利いた声に男たちは縮み上がりました。
静かになったなと思って男たちを見るとみんなして項垂れてしょんぼりしていますねえ。 勢いだけで悪ふざけをしてたんだなあ。
やがて昼を過ぎた頃、雨もようやく上がって晴れ間が見えてきました。 「よしよし。 もう少し写真を撮って2時には下りよう。」
雪之丞も外へ出て飛びっきりのアングルを探しています。 そして小さな祠を見付けました。
「この辺でいいだろう。 上のほうもきれいなもんだなあ。」 3台のカメラが一斉にシャッターを切ります。
緑も芽吹いたばかり。 登山客も居ない山肌を映していきます。
ある程度写し終えた頃、雪之丞は帰り支度を始めました。 「よし。 帰ろう。」
立ち上がった雪之丞に成田君が言いました。 「先生、いつの間に彼女を捕まえたんですか?」
「何? 俺はずっと一人だよ。」 「いえいえ、きれいな彼女が居るじゃないですか。」
そう言われた雪之丞は後ろを振り返りました。 「お前は、、、?」
そこには十二単を着込んだ葵殿が立っていたのです。 実は、、、。
富岳風穴を覗き込んだ時、興味津々で置くまで入り込んだ葵殿は大きな大きな穴に落ちたのでした。
「いてててて、、、。 ここは何処じゃ?」 「天神様のお通りじゃ。」
「なんとなんと、、、わらわは何という所まで来たのじゃ?」 そこは妙に狭苦しい所です。
そこをやっとの思いで抜け出した葵殿は振り返って驚きました。 祠から自分が出てきたのです。
(ここはいったい何処なんじゃ?」 近くには気絶しそうなくらいに大きな男が立っております。
それもそのはず。 葵殿はまるでウサギみたいに小さくなっていたのでした。
それが見る見るうちに大きくなって振り返った雪之丞を驚かせたのでした。
気が遠くなるほどの長い長い穴を通って小さな祠の中に出てきたのです。 そしたら目の前に雪之丞が立っていた。
さあ、これからどうなるんでしょうか?
「それは良いのじゃが今日の拝殿はどうするな?」 「代わりはたーーーーーーくさん居ります故ご心配なさらずともよいわ。」
「そうであるか。 ならば参ろうぞ。」 こうして巫女たちはいつものように拝殿を目指すのであります。
その頃、地上では雪之丞が少しずつ歩を進めておりました。 「いい景色だねえ。 今日は来て良かったよ。」
その声にみんなはホッとするのです。 いきなり「帰ろう。」なんて言い出されたら大変。
まだまだ高山植物も芽を出したばかり。 華やかに咲き香るのはもう少し先のこと。
下から仰ぐ富士もなかなかいい物で、雪之丞は撮影ポイントを見付けてはカシャカシャとシャッターを切っていきます。
この日のためにフィルムも山ほど買い貯めてありますから何の心配もしていません。 途中で無くなると「俺に仕事をさせない気か!」と怒鳴りだすので、、、。
それくらいに厄介なんですよ 雪之丞を怒らせると。 それであんまり話もせずに上へ上へ登ってきました。
もうすぐ昼です。 またまた木陰を見付けたみんなはレジャーシートを広げて弁当を取り出しました。
ここから上に登ろうとすると規制ロープが張ってあります。 この先は落石も有るし雪で地面が緩んでいたりもしますからね。
この辺りには山小屋も有ります。 もしもの時には中で休めるようにもなっています。
雪之丞は頂を見詰めながら雲が流れ過ぎる瞬間を追っています。 同行の一人が弁当を差し出そうとしますが、、、。
「やめとけ。 今、手を出したら噴火するから。」 そう言って別の一人が手を止めました。
彼が何を狙っているのか? それは頂に掛かった雲海が途切れた瞬間です。
その写真を撮り終わると「すごい写真が撮れたぞ。」と自慢そうに画面を見せてきます。 この時の雪之丞はまるで仏様みたい。
弁当を掻き込んでお茶を飲み、レジャーシートに寝転がって辺りを見回していますと大声で話しながら歩いてくる1団を見付けました。
「うるさい連中だなあ。 何をやってんだ?」 「中国人ですよ。」
「やつらか。 まあほっとけ。 自業自得で死んでも手を出すなよ。」 雪之丞は冷たい視線を送りながらまた寝転がりました。
一団はロープの前でワーワーと奇声を上げております。 何とも耳障りな奇声です。
そこへ山小屋の管理人らしい男が出てきました。 「今は登れませんよ。」
「いいんだ。 俺たちは登るために来たんだ。 行かせろ!」 「まだ開山してませんから。」
「俺たちに登らせないって言うのか? お前何様だ?」 男たちはゲラゲラ笑いながら悪態をついてきます。
管理人は根負けしたように言い捨てました。 「何が有っても何が起きても知りませんからね。」
「大丈夫大丈夫。 俺たち猿とは違うんだ。 自分たちで何とでも出来るから大丈夫。」 男たちは笑いながらロープを越えていきました。
雪之丞は頂の向こう側に黒い雨雲が掛かり始めているのを見ました。 「しばらく小屋に入ったほうが良さそうだな。」
同行の一人は不思議そうな顔をしましたが、雪之丞が指差す雲を見て納得した様子。
シートも畳んで小屋にお世話になることにしました。 「おやおや珍しいですねえ。 あなたはカメラマンですか?」
「そうです。 今の時期の富士山を撮りたくて来ました。」 「そうですか。 もうすぐ雨ですよ。」
「そうですねえ。 でもあれは霙混じりかもしれないなあ。」 「とするとさっきの男たちは?」
「まあ、ほっとけ。 身の程知らずを思い知らせてやるんだ。」 雪之丞は熱いコーヒーを飲みながら頂に目をやりました。
1時間ほどして辺りには強風混じりの雨が叩き付けてきました。 「これはひどいなあ。」
山小屋の主人もしかめっ面をして頂のほうを見やっています。 「でもそんなに長い雨じゃなさそうだな。」
成田君は窓の外を見ました。 すると、、、。
山岳救助隊の一団がロープの前に集まってきた。 「何だろう?」
「さっきの連中が呼んだんじゃないのか? まったく人騒がせだぜ。」 雪之丞はポカリと煙草を吹かしながら吐き捨てました。
その40分後、あれだけ奇声を上げていた連中が団員に付き添われて下りてくるのが見えました。 「ここで一休みさせるのかな?」
「とんでもない。 あんなのを入れたら中が大騒ぎになる。」 「でも取り敢えずは入れないと救助隊が、、、。」
成田君たちの話を聞いていた主人が扉を開けて一団を受け入れましたが、、、、。 「あなた方は端のほうでいいでしょうねえ。 自分で何でもなさるんでしょうから。」
そう言って中国人の一団を隅っこに追いやったんです。 救助隊の面々には暖かいコーヒーを差し出しました。
ボスらしい男がガタガタ震えながら喚いています。 「俺たちには何もしないのか!」
「そうだそうだ。」 主人はその声を黙って聞いていますが、、、。
「何とかしろよ! 人殺し!」 それを聞いた人たちは思わずコーヒーを噴き出して大笑い。
それを何かと誤解した男たちはさらに煽り始めました。 「そうだそうだ。 ここの家主は人殺しだ。 殺しちまえ!」
それを聞いた主人はスッと立ち上がると中国人が居るほうのドアを開け放したんです。 真正面から冷たい北風が吹きこんできます。
「さあ、ここから出ていくか? それともおとなしく従うか? どっちだ?」 そのどすの利いた声に男たちは縮み上がりました。
静かになったなと思って男たちを見るとみんなして項垂れてしょんぼりしていますねえ。 勢いだけで悪ふざけをしてたんだなあ。
やがて昼を過ぎた頃、雨もようやく上がって晴れ間が見えてきました。 「よしよし。 もう少し写真を撮って2時には下りよう。」
雪之丞も外へ出て飛びっきりのアングルを探しています。 そして小さな祠を見付けました。
「この辺でいいだろう。 上のほうもきれいなもんだなあ。」 3台のカメラが一斉にシャッターを切ります。
緑も芽吹いたばかり。 登山客も居ない山肌を映していきます。
ある程度写し終えた頃、雪之丞は帰り支度を始めました。 「よし。 帰ろう。」
立ち上がった雪之丞に成田君が言いました。 「先生、いつの間に彼女を捕まえたんですか?」
「何? 俺はずっと一人だよ。」 「いえいえ、きれいな彼女が居るじゃないですか。」
そう言われた雪之丞は後ろを振り返りました。 「お前は、、、?」
そこには十二単を着込んだ葵殿が立っていたのです。 実は、、、。
富岳風穴を覗き込んだ時、興味津々で置くまで入り込んだ葵殿は大きな大きな穴に落ちたのでした。
「いてててて、、、。 ここは何処じゃ?」 「天神様のお通りじゃ。」
「なんとなんと、、、わらわは何という所まで来たのじゃ?」 そこは妙に狭苦しい所です。
そこをやっとの思いで抜け出した葵殿は振り返って驚きました。 祠から自分が出てきたのです。
(ここはいったい何処なんじゃ?」 近くには気絶しそうなくらいに大きな男が立っております。
それもそのはず。 葵殿はまるでウサギみたいに小さくなっていたのでした。
それが見る見るうちに大きくなって振り返った雪之丞を驚かせたのでした。
気が遠くなるほどの長い長い穴を通って小さな祠の中に出てきたのです。 そしたら目の前に雪之丞が立っていた。
さあ、これからどうなるんでしょうか?



