着替えた望ちゃんを前にして雪之丞はレンズ越しに辺りを見回します。
「おい、この辺に影を作れないか?」 「テーブルの所にですか?」
「そうだ。 マングローブもいいけどもっと気の利いた影は無いのか?」 「そんなこと言ったって、、、、。」
ホテルマンも冷や汗を垂らしながら走り回っています。 その中で出版社のスタッフが耳打ちをしてきました。
「何々? 脱がせたいって?」 吉田君が驚いたように喋ったものだからみんなは背筋に冷たい物が、、、。
「脱がせるってどういうことだよ?」 望ちゃんに付いているスタッフが蒼ざめた顔で聞いてきました。
「脱がすってつまり脱がすんだよ。」 「誰がそんなことを、、、。」
「社長が、、、。」 「またあいつか、、、。」
情景設定をしている雪之丞を見てみると、何となく嬉しそうに見えます。 「言ってみるか。」
吉田君は満を持して先程のプランを雪之丞にぶつけてみました。
「脱がす? 誰が言ったんだ?」 「はあ、、、社長ですって。」
「脱がしてもいいけど責任は取らんよ。」 あっさりと言うのでみんなはまた冷や汗が込み上げてきました。
ってなわけで取り敢えず撮影は続いているのです。 ところが、、、。
何枚目かのヌード写真を撮った所でいきなり「辞めよう。」って言い出しました。 「何でなんですか?」
「お前さあ、見せたいと思ってるだろう?」 「そりゃあ売れっ子のアイドルなんだし全国のファンが見たがってるでしょう。」
「そうか? 俺は反対だ。 こんな下品な写真を撮らせるんだったら俺は帰るぞ。」 「しかし先生が、、、。」
「確かに俺は脱がしてもいいとは言った。 でもな、下品な男どもが涎を垂らして喜ぶような写真集にはしたくないんだ。 それを望むなら500万を返してくれ。」
「いやいや、そんな、、、。」 出版社のスタッフは真っ蒼な顔でスマホを手に取りました。
「何をする気だ? 今更社長にご機嫌取りをさせようとしたって無駄だぞ。 おい、荷物をまとめろ!」
雪之丞が怒りだすと三日くらいは誰も近付けません。 吉田君でさえ怖くて話せないんですから。
片付けを一気に終わらせた雪之丞は望ちゃんとスタッフを肌寒いプールサイドに残したまま帰ってしまいました。
帰りの車の中、雪之丞は黙りこくって天井を見上げたまま。 そこへ吉田君のスマホが鳴りました。
出てみると出版社の社長です。 「撮影を断ったんだそうだな?」
「そうです。」 「何で断ったんだ? こっちは半年も前から準備して待ってたんだぞ。」
「これは雪之丞先生の決断ですから、、、。」 「もういい。 雪之丞とは契約せんからそのつもりで居ろ!」
そのどすの利いた声に雪之丞がムクット顔を向けたのでびっくり、、、。 「俺に貸せ。」
雪之丞は吉田君からスマホを受け取ると一気に畳みかけるように攻撃し始めました。
「望ちゃんに罪は無い。 半年も前から準備してたと言うのなら証拠を出してもらおうか。 こちらにはプランのプの字も来てないんだよ。 それに何だ、俺は下流の淫乱雑誌の写真を頼まれた覚えは無いんだぞ。 このような写真をおねだりするなら他にも嫌らしい写真家は腐るほど居るからそっちに頼んでくれ。 俺は金輪際あんたからの頼みは受けんからそのつもりで居ろ。」
ここまで一気に喋ると彼はスマホを吉田君に返しました。 「馬鹿なやつだ。」
そう、確かに雪之丞は淫らな写真は撮らない主義なのです。 だから大手の出版社はそこを気にして言いません。
「チラッとくらいならいいでしょう?」なんて耳打ちしたりすると不動明王みたいなものすごい顔で睨まれるので、、、。
だから予め、「少しだけ脱がせてください。」ってお願いをメモで挟んだりしてきます。 それを見るたびに(またか)って顔をするんですけど、、、。
「俺はなあ、「見てください。」っていうエッチな写真は撮らないんだ。 どちらかっていうと「見えちゃった。」くらいがちょうどいいと思っている。」 難しいんですけど、、、。
「最近の写真集は【見えてます】ってやつが多いだろう? あんななあ品性の無い写真はまっぴらごめんだよ。」 「しかし頼まれたら、、、。」
「そんなもんは他のやつにやらせればいいんだ。 飯も食えなくてウロウロしてるカメラマンは山ほど居る。 俺に頼まなくてもそいつらがやってくれるだろう。」
そう言われてしまったら吉田君でも返せません。 事務所に戻ってきてあの社長の名刺をトイレに流しました。
「あの社長は礼儀も品性も度量も無い男だな。 よくもまああれで出版社をやってられるなあ。」 渋めのお茶を飲みながら雪之丞はメモ帳を開きました。
「次の仕事ですか?」 「そうだ。 来週にでも富士山の写真を撮ろうかと思ってな。」
「富士山?」 「そうだ。 雪も残ってる富士山だ。 日曜日は晴れてるらしいから行こうじゃないか。」
カレンダーを見ると日曜日は5月13日。 まだまだ山開きには遠い富士山ですがある程度までは行けるから問題は無いかと、、、。
「頂上まで行かなくてもいい。 下から仰いで雪景色を撮れたらいいんだ。 成田君からも頼まれてたしな。」 「成田君、、、? あっそうか。」
去年の秋、雪之丞と親友の成田誠一が話し合っているのを聞いたことが有ります。
「晩春から初夏の富士山を撮ってくれないか?」 「富士山を?」
「そうそう。 雪が残っているまだまだ寒い富士山だ。」 「それはいいな。」
雪之丞も実は山登りが好きで気分転換に吉田君を連れて登るんですよ。 北海道にも行ったしねえ。
そんなこんなで13日の予定を組みます。 山へ登るのは午前3時過ぎからにしましょうか。
夜のうちに登山口まで来てそこで待機します。 慌てて登るようなことはしません。
隊長をしっかりと整える意味でも登山口で待機することが必要なんですね。 それから荷物を、、、。
富士山もそうですが山は突然に天候が変わります。 晴れたり曇ったり荒れたり、、、。
最低限、天候が変わっても対処できるくらいの装備は持ってないとね。 それから飲み物。
日陰がほとんど無い所を歩くのだから飲み物とタオルなんかは必需品。 そして雨が降っても耐えられるくらいの荷物を、、、。
あんまり重たくても大きくても体力を消耗するだけなので禁物。 体とコンディションに合わせて荷物を整えましょう。
それでまあ山登りの計画は決まりました。 それまでは暇なんですけど、、、。
「望ちゃんは惜しかったなあ。」 事務所の誰かがポツリと言いました。
「馬鹿。 今頃言うんじゃねえよ。 先生が聞いたら、、、。」 「大丈夫。 ちゃんと聞いてるから。」
「先生、、、。」 お茶を飲んで昼寝をしていると思っていたら雪之丞はスタッフたちの話を聞いていました。
「あの子に問題は無い。 あの出版社がダメなんだ。 別のやつから話が来たらまた受けてくれ。」
みんなは思わず顔を見合わせました。 「どうしたんだ?」
「いや、スマイルカンパニーから話が来てたんですよ。 2週間ほど前に。」 「スマイルカンパニー?」
「ええ。 ただ今回の仕事が先だったもんですから言えなくて、、、。」 「すぐに連絡を取れ。 望ちゃんの事務所にもな。」
それでまたスタッフは大忙しです。 スマイルカンパニーの社長や芸能事務所 ワンワンハウスのマネージャーなど片っ端から電話を掛けまくります。
望ちゃんは次の仕事に入っていて三日ほど空きが有りません。 「しょうがないじゃないか。 前の仕事を蹴った後なんだから。」
スタッフを労いながら雪之丞はまたカレンダーを見ました。
「おい、この辺に影を作れないか?」 「テーブルの所にですか?」
「そうだ。 マングローブもいいけどもっと気の利いた影は無いのか?」 「そんなこと言ったって、、、、。」
ホテルマンも冷や汗を垂らしながら走り回っています。 その中で出版社のスタッフが耳打ちをしてきました。
「何々? 脱がせたいって?」 吉田君が驚いたように喋ったものだからみんなは背筋に冷たい物が、、、。
「脱がせるってどういうことだよ?」 望ちゃんに付いているスタッフが蒼ざめた顔で聞いてきました。
「脱がすってつまり脱がすんだよ。」 「誰がそんなことを、、、。」
「社長が、、、。」 「またあいつか、、、。」
情景設定をしている雪之丞を見てみると、何となく嬉しそうに見えます。 「言ってみるか。」
吉田君は満を持して先程のプランを雪之丞にぶつけてみました。
「脱がす? 誰が言ったんだ?」 「はあ、、、社長ですって。」
「脱がしてもいいけど責任は取らんよ。」 あっさりと言うのでみんなはまた冷や汗が込み上げてきました。
ってなわけで取り敢えず撮影は続いているのです。 ところが、、、。
何枚目かのヌード写真を撮った所でいきなり「辞めよう。」って言い出しました。 「何でなんですか?」
「お前さあ、見せたいと思ってるだろう?」 「そりゃあ売れっ子のアイドルなんだし全国のファンが見たがってるでしょう。」
「そうか? 俺は反対だ。 こんな下品な写真を撮らせるんだったら俺は帰るぞ。」 「しかし先生が、、、。」
「確かに俺は脱がしてもいいとは言った。 でもな、下品な男どもが涎を垂らして喜ぶような写真集にはしたくないんだ。 それを望むなら500万を返してくれ。」
「いやいや、そんな、、、。」 出版社のスタッフは真っ蒼な顔でスマホを手に取りました。
「何をする気だ? 今更社長にご機嫌取りをさせようとしたって無駄だぞ。 おい、荷物をまとめろ!」
雪之丞が怒りだすと三日くらいは誰も近付けません。 吉田君でさえ怖くて話せないんですから。
片付けを一気に終わらせた雪之丞は望ちゃんとスタッフを肌寒いプールサイドに残したまま帰ってしまいました。
帰りの車の中、雪之丞は黙りこくって天井を見上げたまま。 そこへ吉田君のスマホが鳴りました。
出てみると出版社の社長です。 「撮影を断ったんだそうだな?」
「そうです。」 「何で断ったんだ? こっちは半年も前から準備して待ってたんだぞ。」
「これは雪之丞先生の決断ですから、、、。」 「もういい。 雪之丞とは契約せんからそのつもりで居ろ!」
そのどすの利いた声に雪之丞がムクット顔を向けたのでびっくり、、、。 「俺に貸せ。」
雪之丞は吉田君からスマホを受け取ると一気に畳みかけるように攻撃し始めました。
「望ちゃんに罪は無い。 半年も前から準備してたと言うのなら証拠を出してもらおうか。 こちらにはプランのプの字も来てないんだよ。 それに何だ、俺は下流の淫乱雑誌の写真を頼まれた覚えは無いんだぞ。 このような写真をおねだりするなら他にも嫌らしい写真家は腐るほど居るからそっちに頼んでくれ。 俺は金輪際あんたからの頼みは受けんからそのつもりで居ろ。」
ここまで一気に喋ると彼はスマホを吉田君に返しました。 「馬鹿なやつだ。」
そう、確かに雪之丞は淫らな写真は撮らない主義なのです。 だから大手の出版社はそこを気にして言いません。
「チラッとくらいならいいでしょう?」なんて耳打ちしたりすると不動明王みたいなものすごい顔で睨まれるので、、、。
だから予め、「少しだけ脱がせてください。」ってお願いをメモで挟んだりしてきます。 それを見るたびに(またか)って顔をするんですけど、、、。
「俺はなあ、「見てください。」っていうエッチな写真は撮らないんだ。 どちらかっていうと「見えちゃった。」くらいがちょうどいいと思っている。」 難しいんですけど、、、。
「最近の写真集は【見えてます】ってやつが多いだろう? あんななあ品性の無い写真はまっぴらごめんだよ。」 「しかし頼まれたら、、、。」
「そんなもんは他のやつにやらせればいいんだ。 飯も食えなくてウロウロしてるカメラマンは山ほど居る。 俺に頼まなくてもそいつらがやってくれるだろう。」
そう言われてしまったら吉田君でも返せません。 事務所に戻ってきてあの社長の名刺をトイレに流しました。
「あの社長は礼儀も品性も度量も無い男だな。 よくもまああれで出版社をやってられるなあ。」 渋めのお茶を飲みながら雪之丞はメモ帳を開きました。
「次の仕事ですか?」 「そうだ。 来週にでも富士山の写真を撮ろうかと思ってな。」
「富士山?」 「そうだ。 雪も残ってる富士山だ。 日曜日は晴れてるらしいから行こうじゃないか。」
カレンダーを見ると日曜日は5月13日。 まだまだ山開きには遠い富士山ですがある程度までは行けるから問題は無いかと、、、。
「頂上まで行かなくてもいい。 下から仰いで雪景色を撮れたらいいんだ。 成田君からも頼まれてたしな。」 「成田君、、、? あっそうか。」
去年の秋、雪之丞と親友の成田誠一が話し合っているのを聞いたことが有ります。
「晩春から初夏の富士山を撮ってくれないか?」 「富士山を?」
「そうそう。 雪が残っているまだまだ寒い富士山だ。」 「それはいいな。」
雪之丞も実は山登りが好きで気分転換に吉田君を連れて登るんですよ。 北海道にも行ったしねえ。
そんなこんなで13日の予定を組みます。 山へ登るのは午前3時過ぎからにしましょうか。
夜のうちに登山口まで来てそこで待機します。 慌てて登るようなことはしません。
隊長をしっかりと整える意味でも登山口で待機することが必要なんですね。 それから荷物を、、、。
富士山もそうですが山は突然に天候が変わります。 晴れたり曇ったり荒れたり、、、。
最低限、天候が変わっても対処できるくらいの装備は持ってないとね。 それから飲み物。
日陰がほとんど無い所を歩くのだから飲み物とタオルなんかは必需品。 そして雨が降っても耐えられるくらいの荷物を、、、。
あんまり重たくても大きくても体力を消耗するだけなので禁物。 体とコンディションに合わせて荷物を整えましょう。
それでまあ山登りの計画は決まりました。 それまでは暇なんですけど、、、。
「望ちゃんは惜しかったなあ。」 事務所の誰かがポツリと言いました。
「馬鹿。 今頃言うんじゃねえよ。 先生が聞いたら、、、。」 「大丈夫。 ちゃんと聞いてるから。」
「先生、、、。」 お茶を飲んで昼寝をしていると思っていたら雪之丞はスタッフたちの話を聞いていました。
「あの子に問題は無い。 あの出版社がダメなんだ。 別のやつから話が来たらまた受けてくれ。」
みんなは思わず顔を見合わせました。 「どうしたんだ?」
「いや、スマイルカンパニーから話が来てたんですよ。 2週間ほど前に。」 「スマイルカンパニー?」
「ええ。 ただ今回の仕事が先だったもんですから言えなくて、、、。」 「すぐに連絡を取れ。 望ちゃんの事務所にもな。」
それでまたスタッフは大忙しです。 スマイルカンパニーの社長や芸能事務所 ワンワンハウスのマネージャーなど片っ端から電話を掛けまくります。
望ちゃんは次の仕事に入っていて三日ほど空きが有りません。 「しょうがないじゃないか。 前の仕事を蹴った後なんだから。」
スタッフを労いながら雪之丞はまたカレンダーを見ました。



