「右よし、左よし、後ろよし。……よし、どこにもいないな!」

 クルスデイル国王太子ライオネルは、夕焼けに染まる学園の校舎の白壁に張り付いて、きょろきょろと視線を彷徨わせた。

「殿下、ごきげん――」

「しー!」

 下校中のご令嬢の優雅な挨拶を遮って、ライオネルはまたきょろきょろと視線を右に左に向ける。

「……殿下、またやっていらっしゃるわ」

「大変ねえ」

 おっとりと頬に手を当てて、令嬢たちは無言で一礼すると、くすくすと笑いながら去っていく。

 ライオネルがクルスデイル国の王都にある貴族専用学校フリージア学園へ入学して早一か月。

 ライオネルのこの様子は、すっかりフリージア学園の名物になりつつあった。

 最初は怪訝がられたものだが、最近はみな生暖かい視線で見守る――もとい、楽しんでいる。

(くそっ、俺はすっかり道化師扱いだ!)

 ライオネルは舌打ちして、もう一度左右と背後を確認すると、「よし!」と気合を入れて校舎の外に出た――途端。