「あ、うん。それはもちろん」
私だけが彼の個人情報を手にするのはフェアじゃない。二つ返事で了承すると、今度は名桐くんが私がしたのと同じ質問を一つずつ並べていく。
ところが足のサイズが二十二.五センチと答えたところで、「へぇ、小さいな。……あぁ、でもそうか。遠野、手も小さいもんな」と繋がれていたそれを軽く持ち上げられ。
ぱっと開かれた彼の手のひらに私の手が乗る形になって、それからもう一度きゅ、と握り直されてしまえば、落ち着いていた心臓がまたぴょんぴょんと跳ね出してしまう。
いつの間にか馴染んでいて気にならなくなっていた繋がれた手に、意識がいってしまったからだ。
「そ、そうかな⁉︎はいっ、じゃあ次の質問です!好きな食べ物は⁉︎」
……あ、あぶなかった……。
油断すると、すぐ名桐くんのペースに持っていかれそうになってしまう。
私は慌てて持ち上げられたままの手をブン!と振り下ろして、跳ね出した心臓を落ち着けるように、正面を見据えたまま次の質問に切り替えた。
でも、きっとそんな私なんかまるっとお見通しだったのだろう。
「あー、ポテトサラダかな」と答えてくれた声色には上機嫌さが滲んでいて、それにつられてちらりと隣を見やれば、横からでもわかるくらいに暗灰色の瞳が愉快そうに垂れていたから。
それにドキッとした私は、慌てて視線を床に落として言った。
「ああ、うん、おいしいよね、ポテトサラダ!じゃがいもがごろごろしてるのも、なめらかなペースト状になってるのも、どっちもね、うん、おいしいよね!」
「ん、どっちもな」
そう繰り返した彼の柔らかい声音についまた視線を上げれば、さっきのエイの影みたいに全てをすっぽり覆ってしまうほどの優しさを纏った名桐くんが私を見下ろしていて。
本当にいろいろな表情をするようになったんだなぁ、と、会わなかった十年の月日の長さを改めて実感する。
「そう言えば、最初に一緒に飲んだ時も頼んでたね、ポテトサラダ」
「ああ。居酒屋とか定食屋とか、メニューにあったら必ず頼む。オーソドックスなものからコンビーフとかアンチョビの入った変わり種まで、もれなく全部好き」
「へぇ……!じゃあ、このお店のポテトサラダは特におすすめ!みたいなのはある?」
「あー、あるな。今度、タイミング見て連れてく」
「あ、うん……」
さっきから当たり前のように積み重なっていく、約束。
高校生の頃、あの空き教室で会っていた頃は特に約束なんかなくて、名桐くんが気まぐれなネコのようにふらっとやってきた時だけ会える、みたいな感じだったから。だから、今日は来るかな、話せるかなって、放課後が近づくたびにそわそわして。
そんな風にして、いつの間にか名桐くんを待ちわびていた十年前の自分をなんだか急に思い出してしまって、言葉に詰まる。



