初恋のつづき


それから私たちは、一問一答を挟みながら館内を巡ることになった。

名桐くんを知るための第一歩として提案してみた、というのは建前で、そうでもしていないとこの状況に私の心臓が保ちそうになかったから、というのが本音だ。

人間が一生の間に打つ心拍数は決まっていると聞いたことがあるけれど、彼は確実にこの数時間で私の寿命を縮めにきていると思う。

繋がれた手からもはや、私の脈の速さだとか鼓動の速さだとかが伝わってしまっているのでは……?と思うくらいにはそれらの活動が活発過ぎるから、とにかく意識を逸らさなきゃ、と考えた末の苦肉の策だった。

だけどこれが咄嗟にしてはなかなか良いアイデアだったようで、誕生日(二月十八日)、星座(水瓶座)、血液型(A型)、身長(百八十センチ)、足のサイズ(二十七.五センチ〜二十八センチ)あたりまで聞いたところで、気持ちがだいぶ落ち着いてくる。

すると今度はだんだん楽しくなってきて、次は好きな食べ物と嫌いな食べ物でも聞いてみようか、なんて現金にもワクワクしながら続けようとした時、名桐くんが堪らずといった様子で吹き出した。


「待って、これ、ただのプロフィールじゃん。しかも普通に答えちゃったけど、足のサイズって……」


どうやら、彼的にそこがツボにハマってしまったらしい。まるで海の中にいるかのような錯覚を起こしそうになる青に包まれた水中トンネルの中で、くくく、と静かに肩を震わせている。


「え、いや、今の名桐くんを知る前に、そういえば基本情報も何も知らなかったなぁと思い至りまして。まずはそこからかな、と……。へ、変だったかな」

「いや、遠野らしいなと思って。特に足のサイズが出てくるところとか」

「……そう?」

「ああ。楽しそうで何より」


一体名桐くんの中の私のイメージってどんな風になっているんだろう、と思わなくはなかったけれど、名桐くんの方こそ、と言いたくなるようなくしゃ、と崩れたやけに楽しげな表情を前にすれば、そんな些細な疑問はまぁいっか、と飛んでいく。

トンネルを進む私たちの頭上には泰然と泳ぐエイが通りかかり、ゆらゆらとまるで水面のように揺らめいている床ごと私たちを飲み込んでしまうような大きな影を落とす。


「オレも知りたい、遠野のプロフィール」


その影が通り過ぎていくのと同時に、名桐くんが先ほどとは違う笑みをその端正な顔に乗せて言った。