── 十年前、私は彼のことが好きだった。
十年後の今、彼は昔とは見た目も中身もがらりと変わっていたけれど、私はそんな彼のことも好ましいと思っている。
でも、その気持ちは果たして十年前に抱いていた気持ち、いわゆる恋愛感情に通じるものなのかどうか、再会したばかりの今はまだ皆目見当もつかない。
私のどこにそれほど思ってもらえる要素があるのかは分からないけれど、彼が甘やかにまっすぐに向けてくれるこの想いに、初恋の人だからとか、そういう安易で半端な気持ちで答えを出したくはないと思う。
だから今の私にできることはまず、今の名桐くんを少しずつ知っていくこと。その上で自分の気持ちに向き合って、きちんと答えを出すことだ。
「……ちゃ、ちゃんと考えるから、名桐くんのこと……!……だからまずは今の名桐くんのこと、いろいろと教えてください……」
何とか絞り出した今の私なりの答えに、律儀にタイムをしてくれていた名桐くんの双眸が一瞬丸く見開かれ、そのあとゆっくりと柔らかな弧を描いた。
「……ここでそういう可愛いこというの、反則じゃない?」
「いやいや、どっちかっていうと名桐くんの方が反則だったよね……⁉︎」
どことなく嬉しそうに艶っぽい笑みを浮かべる名桐くんに、私はすかさず突っ込む。
「そうだった?じゃあまず一つ教えとく。オレは、デートでは手を繋ぎたいタイプ。覚えといて」
そうすっとぼけながら私の手をさらりと取る彼は、やっぱり私の知っている十年前の彼とだいぶイメージが違う。
こうして今の彼を一つ知るたびに私のHPが削られていくような気がするのは気のせいだろうか……。
「……お、お手柔らかにお願いします……」
「ははっ、保証はできないな」
そんな先行き不安な答えと楽しそうな横顔に、私の心臓は空に浮かぶようにゆったりと揺蕩うクラゲとは対照的に、忙しなく鼓動を刻んでいるのだった。



