長さは今とさほど変わらないけれど、前髪は眉が隠れるくらいのところで切り揃えた黒髪で、顔だって日焼け止めを塗るくらいでメイクらしいメイクもしない、制服だって他の女子みたいに可愛くアレンジしたりもしない。

そんなオシャレに無頓着な、何の面白味もない女子高生だったのだ。

だから当時の私に、無口で硬派で近寄りがたい不良だけど、〝そんなところがカッコいい!〟と様々な系統の女子からやたら人気のあった彼に、それも好きな人がいると知っている彼に、告白する勇気などなかった。

そもそも、そんな人と一時期とはいえ接点があったこと自体奇跡だったのだ。

でも、その経験があったからこそ、高校を卒業してから私は自分に少しでも自信が持てるようにと出来る範囲で見た目を磨き、いわゆる大学デビューを果たし、今の会社に勤めることが出来ている。

その点では、あのほろ苦い経験も何一つ無駄ではなかったと言えるだろう。


「有賀に褒められるとか、何か新鮮」


もう十年も前になる懐かしい青春を振り返っていれば、真瀬さんが軽く目を見開いて呟くから。


「え、そうですか?おかしいですね、私はいつでも尊敬しているはずなんですが」


今度は厚切りハムチーズサンドを頬張りながら私が少し(おど)けた調子でそう言えば、真瀬さんは「……嘘つけ」と鼻に皺を寄せて、おかしそうにくしゃりと笑った。



ーーそう。これは、十年も前の話。


だから、こんな話久しぶりに思い出したなぁ、そういえばそんなこともあったなぁ、やっぱりこの曲懐かしいなぁ、なんて。

ランチを食べ終わるくらいまでは少しだけその感慨に浸って。
 
お店を出る頃には再び、その思い出は綺麗に畳んでそっと胸の奥にしまっておく。

そしてそれは、こんな風に何かのきっかけでもない限り、そうそう取り出されることはない、はずだった。



……なのに。



この数十分後にまたすぐに引っ張り出すことになろうとは、この時の私はまだ知る由もないーー……。