初恋のつづき


「── おー、見て遠野。エイがデカい。あれ、尻尾と棘以外は全部食えるんだよなぁ」

「え!私、エイってエイヒレしか食べたことないかも」

「エイの煮こごりとか美味いよ」

「絶対美味しいやつ……」

「じゃあ、今度食いに行くか。ちょうど今が旬だしな」


あれから幸い車内で甘い雰囲気になることはなく。

夏限定の演出であるデジタル花火に幻想的に彩られたムードのある館内で、私たちが海の生き物を前にして話している内容も、専ら色気よりも食い気。

そのおかげで雰囲気に飲まれずに変に気を張らなくて済んでホッとしていたのだけど、会話の流れでさらりとそう誘われてしまえば、鼓動は従順に反応して跳ねる。


「う、うん……。あっ、エイと言えばりかちゃんが……、って、りかちゃんは私の同期なんだけど、この前ヒレ酒が飲みたいって言って、でもメニューになくて、結局日本酒とエイヒレ頼んで自分でヒレ酒作ってたんだよね」


大きな水槽の中を悠然と泳ぐエイやその周りを周遊する魚たちを見上げたまま、その心臓の動きを悟られまいとして私は平静を装ってエイつながりの話題を出す。話題を提供してくれたりかちゃんに感謝、である。

すると名桐くんが隣でふはっ、と小さく吹き出した。


「さてはかなりの呑兵衛だな、その子」

「うん、すごく強いの。あ、りかちゃんね、転校しちゃったから一年の時だけだったけど、私たちと同じ高校だったんだよ。クラスは違ったけど、名桐くんのこと話したら覚えてた。そういえば、一緒に飲みたいって言ってたなぁ」

「へぇ。なら渋谷も呼んで、今度四人で飲む?ヒレ酒のある店で」


名桐くんとLIN◯を繋げた日、りかちゃんが「飲み会しよ!」と言っていたのをふと思い出してそう言ってみれば、意外にも彼の方からそんな提案をしてくれて驚いた。 

名桐くんを「不良受けに推したい男ナンバーワン」と言っていたりかちゃんが渋谷さんと並んだ彼を見たら、きっと妄想が捗って大興奮しちゃうかもしれない。


「いいの?」

「オレは全然構わないよ。渋谷も喜んでついて来るだろうし」


言いながらにやりと溢れたいたずらめいた笑みにはどこか艶麗さも滲んでいて、私は何となく一抹の不安を抱いて尋ねてみる。


「何か企んでる……?」

「いや?遠野を口説くのに、外堀から埋めていくのも悪くないかなって」

「……も、そういうの、反応に困るからやめて……」


名桐くんの攻撃力はすこぶる高い。誰かにわかりやすく好意を寄せてもらうのが随分と久しぶり過ぎて、防御力も回避率も低い私じゃとても太刀打ちできそうにない。さっきからまともに食らってしまって、ダメージが半端ない私はもう瀕死状態だ。