初恋のつづき

「お疲れ様です!リーフレット、お持ちしました」


あれからなんとかドーナツとペットボトル飲料の差し入れを人数分調達して、商業ビルの一階に入っているspRING(スプリング)へ顔を出せば。


「あ!千笑、お疲れ様!わざわざごめんね、ありがとう」


今度一緒にスイーツビュッフェに行くもう一人の同期でBA(ビューティーアドバイザー)の高木 涼(すず)ちゃんが、真っ先に笑顔で迎えてくれた。

すっきりとした美人さんでマニッシュショートがよく似合うすらっとした体型の彼女は、ブラックの七部丈ペプラムブラウスとブラックのパンツ、黒地に白のラインが入ったスカーフというBAの制服をとてもスマートに着こなしていてかっこいい。

だけどくしゃりと崩れる笑顔はとても可愛らしくて、そのギャップに思わずきゅんとする。

そんな親しみやすさに加えて、持ち前の感性と弛まぬ努力で、先月はこの店舗で常に売上一位をキープしているチーフを押さえてトップに輝いた凄腕BAでもある。


「さっきちょうど波が引いたところで、チーフが席外しちゃってるから代わりにいただくね」


平日の夕方は学校帰りや仕事帰りのお客様で賑わっていることが多いけれど、ちょうど良いタイミングだったようだ。


「うん、お願いします。あ、あとこれ、差し入れなので、良かったらみんなで食べてね」

「ドーナツだ!ありがとう、嬉しい。さすが千笑は気遣い屋さんだねぇ」


他のスタッフたちからもぺこりと会釈をもらい、それに笑顔で返す。

涼ちゃんはその中の一人に「裏に置いてくるねー」と声をかけてから、私のこともバックヤードに誘った。


「どう?新作ルージュのプロモーションの方は、忙しい?」


ドーナツとリーフレットを机の上に置いて「座って座って」と私に椅子を促した涼ちゃんは、飲み物を小さな冷蔵庫に入れながら聞く。


「うん、今イベントに向けていろいろ動き出してるところで、忙しくなってきてる」

「そう言えば理可子から聞いたけど、代理店の担当の一人が、二人の高校の同級生だったって?」

「えっ?う、うん」


涼ちゃんは、私とりかちゃんが同じ高校で一年間だけクラスメイトだったことを知っている。

でもまさか彼女から彼の話題が出るとは思わず、ここにくる前にせっかくクールダウンしてきた熱が少しぶり返してしまう。


「えっ、顔赤いけど、どうした⁉︎」

「なんでもないよ⁉︎」


……少しどころではなかったかもしれない。振り返った涼ちゃんに、速攻で指摘されてしまった。

このすぐに顔に出てしまう癖を、切実になんとかしたい……。


「ははっ!もう、千笑はわかりやすいなぁ」


当然誤魔化せるはずもなく、わしゃわしゃと私の頭を撫でくり回しながら涼ちゃんがころころ笑う。