初恋のつづき

「……渋谷さんてひょっとして、普段人前ではあんまりスイーツ食べたりしない人……?」

「……ああ。甘いの食いに行く時は、大抵一人だな。俺はたまに付き合わされるけど」


私の質問に、ちらっとだけこちらを見た名桐くんの形の良い眉が、僅かに下がった。


〝あ、ごめん、引くよね、俺みたいなのが甘いのこんなに食べてたら〟


── あの時、渋谷さんがそう言っていたのが何となく気にかかっていた。

その後に続いた言葉も、今日はついうっかり食べてしまった、そんなニュアンスだったから。

多分、過去に引かれた経験があるんじゃないだろうか。

それも、恐らく付き合っていた人に、とか……。


でも、それ以上はここで私が触れて良い話ではない。

名桐くんもそれ以上詳しくは言わないし、だから私ももう聞かない。
 
彼の、友達のプライベートな部分をむやみやたらに第三者にしゃべらないところを、とても好ましいと思う。


「── 機会があったら、誘ってみたりしたらダメかなぁ……。私、渋谷さんに引かれるくらい食べる自信、あるんだけどな」


だから、少し(おど)けた調子でそれだけ言うと、その横顔が少し緩んだ。


「……いや、喜ぶよ、きっと」


……やっぱり名桐くんは、何だかんだ言っても渋谷さんのことを大事に思っているんだなぁ。

その表情と一言で、分かってしまう。


「でも、その時は俺も誘って」


そんな二人の関係性に一人ほっこりしていれば、左折するためにウィンカーを出しながら名桐くんがそう付け加えた。


「え?」

「引くほど食う遠野が見たい」

「そ、それは見られたくありません」

「何で?渋谷に見せられて、俺に見せられないとか、ある?」

「……」


なぜか少し楽しげにも聞こえるその声に、あるよ!と強くは言えない私。

……だって、そこでさらに「何で」って聞かれても、困るから。

仮にも初恋の人に、スイーツを次から次へと(むさぼ)っている姿なんて見せたくないって思うのが乙女心でしょう?

ただでさえ、彼の記憶の中の私は好きなおやつが酢昆布や茎わかめや干し梅で、うっかり白米二段のお弁当を持ってきちゃうような女だ。

だからせめて十年後の私くらいは、もう少しまともでありたいし、出来ればあの記憶も上書きしてもらいたいくらいなのだ。


「……店舗に寄る前に、サクッと差し入れ買いたいです」


だからしれっと話題を変えることにしたのだけれど、「こら、話を変えるな」と、横からハンドルを握っていない方の手がにゅっと伸びてきて、コツン、と軽くおでこを小突かれてしまう。

自分は自由自在に仕事モードに切り替えたりしてくるくせに、私のそれは許してくれないらしい。


「飲み物と、お菓子を……」

「おい」

「あっ、もう少し行くと左側に無添加ドーナツのお店があるから、そこに寄って欲しいです!」


それでもひたすら前を見据え頑なに差し入れトークを貫いた私に、ついに名桐くんが「ふっ……」と小さく吹き出した。


「── それは、俺のことを少しは意識してくれてるって、思っていいの?」