初恋のつづき

「え?」

「いや。で、遠野は今日、これ終わった後は?」

「あ、私は一ヶ所店舗に届け物をした後、直帰して良いことになってる」


実は本社を出る前、商業ビルに入っているspRINGの店舗から、お客様用のリーフレットの在庫が切れそうだと連絡があった。

すでに発注はかけているものの、本社便が店舗に届くまで保ちそうにないかもしれないと言う。

テナントに入っている店舗の中で、常に売り上げ上位にいる店だ。

リーフレットは、お買い上げいただいた時に袋にご一緒させていただくのはもちろんのこと、下見に来てくれた方にもお渡しして購入を検討してもらう、言わばお客様の購買意欲を高めてくれる大切なアイテム。

だから在庫を切らしてしまうのは、かなり痛い。

生憎、今すぐには便が届くまでの繋ぎ分を届けに出られそうな人はおらず。

でも、幸いそのショッピングモールはちょうどルナアーラホテルTOKYOの最寄駅から二駅先のところにあって、ならばと、「打ち合わせ後でよければ届けます!」とその役を買って出てきたのだ。


「じゃあ、直帰後の予定は?」


「……え?特にはないけど……」


まさか、直帰後の予定まで聞かれるとは思わなかった。

けれど、私の退勤後なんて高が知れている。

亮ちゃんのお家で一緒に食卓を囲ませてもらうか、りかちゃんや、もう一人仲の良い同期と2人、または3人で飲みに行くか。

その二つの予定が入っていなければ、大抵は帰ってお風呂に入ってご飯を食べて寝るだけの、変わり映えのない毎日だ。


「なら、帰りにその店舗まで送ってくから、その後ちょっと付き合え」

「え、付き合えって、どこに?」


でも、私のその疑問には艶麗な笑みが返ってきただけで。


「── んじゃ、軽くすり合わせすんぞ」


驚く私の視線の先で、なぜか満足そうに口角を持ち上げた名桐くんの横顔が言う。


「え⁉︎あ、は、はい!」


……もう!またこうやって急にスイッチを切り替えてくるのだから、困る。

本当に、掴みきれない人だ。


そしてその言葉を合図に私はバッグからガサゴソと資料を取り出しながら、終わったら一体どこに連れて行かれるのだろうと気にはなりつつも。

ホテルへ向かう車中で、名桐くんと打ち合わせ前のすり合わせ作業を行うのだった。