初恋のつづき

早速事情を話せば、彼は「……あー、開始が一時間ズレちゃうと、その後入ってる打ち合わせがちょっと厳しくなっちゃうなぁ……、うーん」と悩ましげに唸った。

何となくそんな気はしていたので、


「やっぱりお忙しいですよね?でしたら、」


〝もし差し支えなければ今回は私一人で行きましょうか〟そう続けようとしたところで、『あっ!』と渋谷さんのやたら大きな一音にそれは遮られてしまった。


『有賀さん、ちょっとそのまま待ってて!オレの代理でなぎちゃんが行けるかも!』

「え、……えっ!?」


確かに名桐くんは今回のプロジェクトの統括マネージャーだし、渋谷さんの代打としては十分な人材だけど……!


『── なぎちゃーん!名桐ー!おーい、課長代理ー!』


……多分ケータイを耳から離して呼び掛けているんだろうけれど、彼の声はそのひと手間が意味をなさない程のボリュームだった。

私の動揺を他所に、呼ばれた名桐くんが近づいてくる足音と、『……んだよ、うるせーな。そんな大声でバリエーション豊かに呼ばなくても聞こえてるわ』と呆れたように溢した声を電話が拾う。

絶対営業用ではなさそうなその返しから、彼らはきっと社内ではなく社外にいて、恐らく今は近くに仕事関係の人もいないのだろうと推測出来た。

渋谷さんが電話の向こうで手短に状況を説明している声を聞きながら、無意識に私の受話器を握る手に力が入る。

先週ぶりの名桐くん。

夜の公園で、彼の謎の色気にあてられて以来の名桐くん。

そのせいで私は多分、今ちょっとドキドキして緊張してしまっているのだ。


『── もしもし、遠野?』

「はっ、はいっ!」 


耳元で、実際の声よりも少し低く響いた名桐くんの声にドキッとした。耳元でっていうのがまた先週の《《アレ》》を彷彿とさせて……、って、今それを思い出すな、自分ーーー!

ここはオフィス!今は仕事中!しっかり!


『事情は聞いた。オレ午後の予定調整出来るから、渋谷の代わりに打ち合わせ同行するよ。初回だから、うちからも顔は出しておきたい』


そんな私の内心の動揺などもちろん知る由もない名桐くんが、淡々と話を進めていく。