「あ、時間変更ですね。少々お待ち下さい、すぐ確認しますね」


言いながら、足元のバッグからスケジュール帳を取り出して予定を確認する。

今日は、午前中に先程終えてきた出版社との打ち合わせと午後からの上田さんとの打ち合わせの他は、社内でも社外でも時間を拘束される予定は入っていないため私の変更は可能だ。ただ……。


「── 私の方は変更大丈夫です。ただ、今回は代理店のイベントプランナーの方も同席予定なので、そちらへ確認を取ってから改めてご連絡させていただいても良いですか?場合によっては日を改めさせていただくか、私のみでお伺いすることになるかもですが」


そう。今回はイベントプランナーである渋谷さんも同席で打ち合わせの予定になっているのだ。

でももし彼の都合が付かなければ、今日は初回だし、日を改めるよりも私一人で伺って後で情報共有する可能性の方が高い。


『それはもう、こちらの都合で無理を言ってしまってるので……!お手数をお掛けして申し訳ありませんが、私はこれから出なければならないので、ご連絡はケータイの方へいただければと……』

「分かりました。では一旦失礼しますね」

『はい、すみません。よろしくお願いします── 』


声と同様の爽やかな面差しの上田さんが、眉をハの字に下げている表情が目に浮かんだ。

そんな彼との通話を終え、私は早速渋谷さんへ連絡を取る。

この前一緒に飲んだ時、社内にいるよりも社外に出ている方が圧倒的に多いと言っていたので会社ではなくケータイの方へ掛けてみれば、四コール目でそれは繋がった。


「── はい、渋谷です!」

「あ、お忙しいところすみません。お世話になっております、spRINGの有賀です」

『おーっ、有賀さんっ!!先週はありがとうね!おかげでとっても楽しい夜でしたっ!!』


……あ、この人、電話でも元気いっぱいだ。

先週ぶりの渋谷さんに声の勢いだけで圧倒されてしまい、思わず受話器を耳から浮かせて苦笑してしまった。

……同時に、先週飲んだ帰りに渋谷さんのことを〝あれは、ただうるさいだけだ〟と言っていた名桐くんを思い出して、さらには《《それに付随する他の記憶》》まで芋蔓(いもづる)式に思い起こされそうになって、私は慌てて受話器を元に戻し口を開いた。


「い、いえいえこちらこそです……!あのっ、今お電話大丈夫ですか!?」

『うん、平気だよ!今日、十四時から一緒に打ち合わせだよね?』

「その件なんですが── ……」