「── 昼間の《《アレ》》。亮太さんと遠野、どう見ても仲の良い夫婦にしか見えなかったし」
「……ウソ!?」
少し不機嫌さの滲む声で続けて言われたそれに、私はすぐさま亮ちゃんが忘れ物を届けにきてくれた時まで記憶を巻き戻す。
『《《うち》》に忘れてくとか、ほんとしっかりしてるように見えて抜けてるよね、《《千笑ちゃん》》は』
『《《亮ちゃん》》は、今日帰り遅いの?』
『うん』
……ああ……。亮ちゃんは私のことを義姉さんなどとは呼ばないし、確かにあのシーンをそういう目で見てみれば、まるで一緒に暮らしている夫婦の会話みたいに聞こえるな……。
「聞けば名字も同じだし、極め付けにマンションの前で出くわせば、そりゃあ、な」
と、そこで私はようやく腑に落ちた。
『今のって、誰?』
渋谷さんが入館証を取りに行ってくれている間にそう聞かれた時。
『へ?今の……って、あ、亮ちゃん?亮ちゃんは有賀 亮太って言って、私の三つ下のお、』
『いや、待て、いい。もう分かった』
皆まで答える前に〝分かった〟と遮られてしまったけれど、あの時の〝分かった〟は、そういうことだったんだ。
〝有賀 亮太〟と聞いて、名桐くんはそこで亮ちゃんを私の《《夫》》だと完全に誤解した。
そしてそう誤解したままここで亮ちゃんにバッタリ出くわしてしまえば、実際は同じマンションの別フロアに住むただの義姉弟だったとしても……。
「……あー……、確かに……、うん、それはそういう見方も、」
「いや、むしろそういう見方しか出来ねーから、」
「ご、ごめん……!」
ピシャリと食い気味に飛んできたそれに、私も食い気味に返す。
そこでふ、と少し表情を緩めた彼が、ジンジャーエールを煽った。
隣に並んでいるが故に際立つゴク、と動いた男らしい喉仏に思わずドキッとして、名桐くんに向けていた身体をそろそろと正面に戻す。
「まぁ、亮太さんには感謝だな」
「うん、それは本当にそう……」
亮ちゃんが〝義姉〟というキーワードを出さなければ、私もまさかそんな勘違いをされているとは気づかずに、当分誤解されたままだったに違いない。
そう思いながら自分の膝あたりを見つめて答えれば、ギッ、という音と共に、今度は名桐くんがこちらに身体を向けた気配がした。
「でもさ、亮太さんのことは誤解だったにしても、遠野に今、そういう相手はいないの?恋人とか、婚約者とか」
「い!?いない、いない!いる訳ない!」
まさかそんな質問が飛んでくるとは思わず、速攻で否定しながら反射的にまた彼の方へ身体を向けてしまうと、あまりにも真っ直ぐにこちらを向いていた視線とかち合って。
その瞬間、彼の形の良い薄い唇がニッ、と弧を描いた。
「── なら、もう遠慮しなくて良いってことだよな」
「……ウソ!?」
少し不機嫌さの滲む声で続けて言われたそれに、私はすぐさま亮ちゃんが忘れ物を届けにきてくれた時まで記憶を巻き戻す。
『《《うち》》に忘れてくとか、ほんとしっかりしてるように見えて抜けてるよね、《《千笑ちゃん》》は』
『《《亮ちゃん》》は、今日帰り遅いの?』
『うん』
……ああ……。亮ちゃんは私のことを義姉さんなどとは呼ばないし、確かにあのシーンをそういう目で見てみれば、まるで一緒に暮らしている夫婦の会話みたいに聞こえるな……。
「聞けば名字も同じだし、極め付けにマンションの前で出くわせば、そりゃあ、な」
と、そこで私はようやく腑に落ちた。
『今のって、誰?』
渋谷さんが入館証を取りに行ってくれている間にそう聞かれた時。
『へ?今の……って、あ、亮ちゃん?亮ちゃんは有賀 亮太って言って、私の三つ下のお、』
『いや、待て、いい。もう分かった』
皆まで答える前に〝分かった〟と遮られてしまったけれど、あの時の〝分かった〟は、そういうことだったんだ。
〝有賀 亮太〟と聞いて、名桐くんはそこで亮ちゃんを私の《《夫》》だと完全に誤解した。
そしてそう誤解したままここで亮ちゃんにバッタリ出くわしてしまえば、実際は同じマンションの別フロアに住むただの義姉弟だったとしても……。
「……あー……、確かに……、うん、それはそういう見方も、」
「いや、むしろそういう見方しか出来ねーから、」
「ご、ごめん……!」
ピシャリと食い気味に飛んできたそれに、私も食い気味に返す。
そこでふ、と少し表情を緩めた彼が、ジンジャーエールを煽った。
隣に並んでいるが故に際立つゴク、と動いた男らしい喉仏に思わずドキッとして、名桐くんに向けていた身体をそろそろと正面に戻す。
「まぁ、亮太さんには感謝だな」
「うん、それは本当にそう……」
亮ちゃんが〝義姉〟というキーワードを出さなければ、私もまさかそんな勘違いをされているとは気づかずに、当分誤解されたままだったに違いない。
そう思いながら自分の膝あたりを見つめて答えれば、ギッ、という音と共に、今度は名桐くんがこちらに身体を向けた気配がした。
「でもさ、亮太さんのことは誤解だったにしても、遠野に今、そういう相手はいないの?恋人とか、婚約者とか」
「い!?いない、いない!いる訳ない!」
まさかそんな質問が飛んでくるとは思わず、速攻で否定しながら反射的にまた彼の方へ身体を向けてしまうと、あまりにも真っ直ぐにこちらを向いていた視線とかち合って。
その瞬間、彼の形の良い薄い唇がニッ、と弧を描いた。
「── なら、もう遠慮しなくて良いってことだよな」



