「時間も時間だし、危ないから大人しく電車で帰るぞ。送ってくから」

「えー、まだ全然平気な時間だよ?酔い覚ましに散歩して帰るー!」

「……ったく、世話の焼ける……。分かった。オレも同じ方面だから、一緒に歩いて帰るわ」

「へへ」


すっかり聞き分けのない子供みたいになってしまった私の主張を、呆れながらも受け入れてくれた名桐くん。しかも、一緒に歩いて帰ってくれると言う。

その優しさが嬉しくて、私はにへら、と締まりのない笑みを浮かべた。


まるで日中の熱を全て吸収し切ったアスファルトから立ち昇っているかのように感じられる、湿気を多分に含んだ空気が二人を包む。

そんな中、私たちは歩き出した。

……逆の方向へ。


「……そっちじゃない。こっちだバカ」


たちまちグイッと手を引かれ、軌道修正される。


「えへへ……」

 
振り返って笑って誤魔化せばその手はすぐに離れたけれど、「タチの悪い酔っ払いめ……」とため息を吐かれてしまう。


「ごめーん……」

「……ほら、行くぞ」

「あ、待って!」


一歩、二歩と進んでいた名桐くんは一度立ち止まって顔だけをこちらに向け、私が追いつくと、再び前を向いてゆっくりと歩き出した。