「ーー名桐くん、今日はごちそうさまでした!とっても美味しかったし、楽しかったです」

「……なら良かった」
  

私がペコリとお店の前で頭を下げれば、名桐くんが空気を柔らかく揺らすような笑みをこぼす。
 

今日の食事は、彼がご馳走してくれた。

何と、私がトイレに行っている間に支払いを全て済ませてくれていたのだ。(ちなみに渋谷さんは、自分の分をちゃんと律儀に置いて帰って行った。)

私もせめていくらか払おうとしても、受け取ってもらえず。

十年後の名桐くんはやっぱり、十年前の彼からは想像も出来ないくらいスマートな大人の男性になっていた。


「遠野。帰り、電車どっち方面?」

「下り方面!最寄りが隣の駅なの。でも歩いて三十分くらいだから、今日は歩いて帰ろうかなぁ」

「……待て。今から?」


名桐くんの眉間にたちまち皺が寄る。


「うん、今からー。ふふふっ」

「……遠野……。酔ってなさそうに見えて実は酔ってるとか、やめて?」


名桐くんがはぁ……、とため息を吐きながら額に手を当てた。


……そうなのだ。

私はお酒に強くはないのに、なぜかそれが顔には出にくい。

だから一見すると酔っているようには見られなくて、往々にしてその言動で酔っていることが発覚することが多い。