「食いたい物あったら教えて。それとあとは、オレのオススメいくつか頼んでいい?」

「うっ、うん!お任せします!」


来店時の店員さんとの親しげなやり取りで知ったのだけど、彼はここの常連さんらしい。

慣れた様子で店員さんを呼んで、私の選んだメニューと彼オススメのメニューをサクサクと注文してくれた。


「ーー十年ぶり?」


先に届いた生ビールとカシオレで乾杯をして乾いた喉を潤し、お通しのさきイカとキュウリの和え物、とりあえずのおつまみとして頼んでくれた漬けチーズ、長芋のわさび漬け、チャンジャのうち、チャンジャをつまみながら名桐くんが口を開く。


「うん、十年ぶり」

「まさか、あれから十年も経ってこんなところで再会するとはなぁ」

「ほんとにねぇ。っていうか名桐くん、変わり過ぎてて私名前だけ聞いても本当にあの名桐くんかどうか、声掛けてもらうまでは半信半疑だったよ」

「オレはすぐ分かったのに?」  

「うぅっ……、そっ、それはごめん……っ」


そこで彼の切れ長の瞳が途端にスッと細くなるから、私はしどろもどろになりながら苦し紛れにカシオレをグイッと煽った。


……うん。甘酸っぱい。


思った瞬間頭の中にしたり顔で登場した誰かさんのことは、しっしと追い払っておく。


「でも、ほんとよく分かったね、私だって」

「まぁ、記憶力は良い方だし、遠野はオレほど変わってなかったし?」

「……なんかズルい」


小首を傾げて悪戯っぽい笑みを見せた名桐くんをじとりと見遣ってそうこぼせば、「ふ、何だよ、ズルいって」とその表情が柔らかく崩れる。


……何がズルいって、私のことをすぐに分かってくれたことも、自分のビフォーアフターの振れ幅の大きさを認識していながらそんな風に言うことも、あの頃には見られなかった、そんな表情も。

もうその全部だよ、なんてそんなことはもちろん口には出せないけれど。

でも、その全てを詰め込んだ顔で私はもそもそとさきイカとキュウリの和え物を摘んだ。