「遠野、何飲む?」

「あー、えっと、じゃあ……、カシオレで」


お酒がそんなに強くなく、ビールの苦味が苦手な私は会社の飲み会とか集団飲みの時には雰囲気に応じて最初の一杯をビールにしたりするけれど、それ以外の時は大抵飲みやすいカクテルやサワーなどを頼むことが多い。

だから今のこの選択は、私の青春の一ページを〝甘酸っぱいカシオレの思い出?〟なんて称した誰かさんに影響された訳では決してないのだと、声を大にして言いたい。



ーーここは駅からほど近い、半地下にあるモダンな雰囲気の隠れ家的居酒屋。

一応〝居酒屋〟という(くく)りらしいけれど、無垢(むく)材の一枚板のテーブルにシックなペンダントライトなど、店内を彩るインテリアのどれをとってみてもセンスの良さが光る、まるでオシャレなビストロのような雰囲気のあるこのお店で、私と名桐(なぎり)くんは今、ドリンクメニューを覗いている。


あれから何となくそわそわと落ち着かない気持ちを抱えながら仕事を終え、そこから名桐くんに連絡するまでに(気持ち的に)少しの時間を要し。

えい!と連絡をして、待ち合わせて連れて来てくれたのがこの素敵なお店だった。


「嫌いな食い物とか、苦手な食い物ある?」


名桐くんが、今度はフードメニューを開きながら聞いてくれる。


「う、ううん、好き嫌いは特にないです。何でも食べれます。雑食です!」

「何で敬語だよ。……ふ、しかも雑食って」


あ、最後、余計な一言をつけてしまったばっかりに笑われてしまった。


……いや、でも、だって、目の前にあの名桐くんだよ?

十年ぶりに再会した、曲がりなりにも私の初恋相手だよ?

しかもここだって予約してくれていたみたいだし、入る時もレディーファーストだったし、今だってさり気なくメニューをこちらに向けてくれているし。

そんなところがなんていうか、恐らく十年前の彼にはきっとなかったであろうスキルで。

彼の今の容姿も相まって、それら全てがそつのない完璧な大人の男性の雰囲気を醸し出しているのだ。


ーーそんなの、緊張しない方がおかしい。